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森春菜 /Haruna Mori
ANNA DIAMOND ファウンダー/デザイナー。神奈川県出身。コピーライターのキャリアを経て2021年にブランド設立。ユニークな色や形のアコヤ真珠や都市鉱山などの素材を編集し、新時代のジュエリーを提案。2025年秋からパリへ移住予定。夫と犬と3人暮らし。
カプセルワードローブとは?ミニマルに暮らすための服の選び方
カプセルワードローブとは、厳選された少ないアイテムで最大限の着回しを楽しむ、シンプルで効率的なワードローブのスタイル。流行に左右されないベーシックな服を中心に、自分に必要なものだけを厳選することで、毎日のコーディネートがスムーズになる。忙しい朝の支度が楽になり、無駄な買い物も減るなど、暮らし全体が整っていく。
お気に入りだけに囲まれる心地よさ、選択のストレスから解放される自由——カプセルワードローブは、そんな現代のライフスタイルに寄り添う、新しいファッションのかたちだ。
選ぶことは、見つめ直すこと。森さんがたどり着いたファッションとの向き合い方
ミニマルなワードローブと、選び抜かれたアイテムが印象的な森さん。スタイリッシュでありながら、意志を感じるその装いには、どのような背景があるのだろうか?日々の服選びで大切にしていることや、ワードローブとの向き合い方について話を伺った。
——今のように、厳選したアイテムで自分らしいスタイルを組み立てるようになったきっかけはありますか?
もともとは、いろんな服をたくさん着るのが好きだったんです。大学生の頃はとにかく服の量が多くて、毎日のように新しいアイテムを探していました。けれど、あるときふと「新しい服を買った瞬間は嬉しいけれど、その喜びって長く続かないな」と気づいて。「ものの量=幸福度」ではないんだと実感したのが、今の考え方に至ったきっかけです。
それからすぐに「ものを徹底的に減らそう」と決めて、妹に譲ったり、メルカリに出したり。そんなふうに少しずつ手放していくうちに、1ヶ月ほどで服の量はおよそ5分の1に。そこから、自分にとって本当に必要なものだけで暮らそうという意識が自然と芽生えていったんです。

——服の量を減らしたあと、日々の収納や整理の仕方にも変化はありましたか?
当時ちょうど衣替えをしていたのですが、「持っている服の全体量をいつでも把握できるようにしたい」と思って、大きなラックを目に見える場所に設置しました。春夏秋冬すべての服をそこにかけることで、一年を通して着るアイテムをひと目で把握できるようにしています。
隠さずに見える化することで、自分にとっての最適な量や、何が必要かがよりクリアになる。そんな整理を続けるうちに、気づけば自然とカプセルワードローブの考え方にたどり着いていました。
——そんな森さんが、新しいアイテムを迎えるときに大切にしている軸や価値観があれば教えてください。
いちばん大事にしているのは、「作り手の考え方に共感できるかどうか」。その背景にある思いや哲学に惹かれると、自然とその服をもっと大切にしたいと思えるんですよね。もうひとつは、「1年後や2年後もときめいていられるかどうか」。このどちらかに当てはまったときだけ、新しく迎えるようにしています。
気になるブランドやアイテムを見つけた時は、必ずリサーチします。その分、購入までに時間はかかりますが、それも自分にとっては楽しいプロセス。背景や作り手の想いを理解した上で選ぶことで長く大切に着たいという気持ちがより強くなるんです。たくさん服を持っていた頃より、今の方が一つひとつのアイテムが自分の暮らしに根づいていて、結果として日々の幸福度も高まったと感じています。
ファッションへの高揚感を大切にしながら、背景に目を向ける
——素材選びやブランドとしての取り組みなど、環境への配慮が選ぶ基準になることもありますか?
すべての服をサステナブルなブランドから選んでいるわけではありません。でも、信念を持ってものづくりをしている方の服には、大量生産や流行に左右されない、丁寧な姿勢が感じられることが多いんです。そして、そうした方々が選ぶ素材や生産背景には、自然と環境への配慮が込められていることも少なくありません。
だから私は、思想や姿勢に共感できるかを基準に選ぶようにしています。その結果、環境に配慮されたものに出会うことも多い気がします。やっぱりファッションは、“ときめき”や“高揚感”が大切。その感覚を大切にしながら、背景にも目を向けて選ぶようにしています。
もちろん、1年後には着なくなる服もあるかもしれません。でも、そうした経験を通じて実感するのは、「素材が環境にやさしいかどうか」以上に、「心から愛せる一着かどうか」が、自分にとっていちばん大切だということ。「この服と一緒に時間を過ごしたい」と思える気持ちを信じて選んだ服こそ、自然とワードローブに残っていくのだと思います。
——実際にカプセルワードローブを実践して、どんな変化がありましたか?
一番の変化は、自分のことをより深く理解できるようになったことです。「どう見られたいか」ではなく、「自分がどうありたいか」を基準に服を選ぶようになりました。どんな人間でいたいのか、何にときめくのか。そんなことを自然と考えるようになったんです。
また、欲しい服が明確なので、なんとなくお店を回ることがなくなりました。その分、本を読んだり創作に時間を使えるように。限られた時間を、本当に大切なことに使えるようになったと感じています。服の数を絞ったことで選ぶ時間も丁寧になり、一つひとつの選択に意味を持てるようになりました。誰かに流されず、自分の軸でいられること。それこそが、カプセルワードローブの一番の魅力だと思っています。
森さんの日々の選択を軽やかにする、11のアイテム
森さんのワードローブの特徴は、黒を基調としていること。
新たに迎える服も基本的に黒と決めており、今では約95%を黒が占めているそう。ジュエリーが映え、甘くなりすぎず、何にでも合わせやすいという安心感が、理由のひとつ。色合わせを気にせず選べるため、服選びの基準が明確に。
ここでは、森さんが日々愛用している11のアイテムをご紹介。機能性や心地よさを備え、日常に寄り添うアイテムには、毎日の選択を軽やかにするヒントが詰まっている。
ドレス/ HARUNOBUMURATA

「Luxury of Silence」をコンセプトに掲げ、日本のラグジュアリーブランドとして注目される「HARUNOBUMURATA(ハルノブムラタ)」。このドレスは、デザイナー・村田晴信氏が描く黒の世界観に心を動かされて迎え入れた一着だそう。
「黒一色でここまで豊かなコントラストを出せるアイテムってすごく珍しくて。かぼちゃのように膨らんだパーツを上下に動かすと、シルエットが変化するんです。上の位置にすればピンヒールと合わせてドレッシーに、下げればマーチンなどでカジュアルにと、シーンに応じた幅広いスタイリングが可能で、とても気に入っています」(森さん)
ドレスに合わせているのは、イタリアの靴職人の工房で見つけた一足。先端がシャープなポインテッドトゥのローファーで、履くほどに革がやわらかくなり、足に馴染む感覚もお気に入りだそう。
「ドレスアップが求められる場でも、自分らしさは大切にしたい。だからこそ、ヒールではなく、ポインテッドトゥのローファーで華やかさをプラスしました」(森さん)
レザートートバッグ/ The Row
「The Row(ザ・ロウ)」のレザートートは、ほぼ毎日使うほどのお気に入り。サンプルやPCなど荷物が多い日常にも対応できる容量を備えつつ、華奢な持ち手のデザインが全体をバランスよく見せてくれる点が魅力だそう。
「サステナビリティの観点からレザーを避ける方もいると思いますが、私は長く使えるかどうかをいちばん大事にしています。このバッグも、寿命が尽きるまで何年も使い続けたいと思えるアイテムです」(森さん)
トップス / DIOR(ヴィンテージ)


くるみボタンがあしらわれたエレガントな佇まいながら、紳士服のような素材感も感じられるヴィンテージの「DIOR(ディオール)」のトップス。ジャージーではない絶妙なテクスチャーのバランスに惹かれて、森さんが一目惚れで購入した一着。
「すごくエレガントなんですが、どこかメンズライクな素材感で。そのバランスに惹かれて、これはもう直感で『欲しい!』と思い、迎え入れました」(森さん)
リング / ANNA DIAMOND

「ANNA DIAMOND(アンナ ダイアモンド)」は、消費社会で注目されてこなかった素材に新たな視点を与え昇華する一連のストーリーを届けるジュエリーブランド。森さんが愛用するのは、芯のある強さとエレガンスを両立する2つのリングだ。
Reshine scratch ringは、都市鉱山由来のシルバーにラボグロウンダイヤモンドをあしらったリング。星が生まれる瞬間の光の軌跡を思わせるデザインは、なだらかな曲線に沿って石を留める高度な技術によって生み出されている。
「これは365日、欠かさず身につけているリングです。媚びない強さと、どんな装いにも馴染むエレガンス。その両方を併せ持っていて、まさに自分の理想像を映し出している存在です。難易度の高い技術に挑み続けてくれた職人さんたちの姿勢も含めて、特別な思い出が詰まった一本です」(森さん)

Akoya pearl open ringは、自然な個性を持つバロックアコヤパールをあしらったオープンリング。それぞれ形の異なる真珠が織りなす、唯一無二の美しさを楽しめるデザインが特徴だ。
「『みんな違って、みんな良い』というメッセージを宿したリングで、『他人と同じでなくていい。自分らしさこそが美しい』ということを、日々思い出させてくれます。誰もが“右向け右”になりがちな日常の中で、自分の軸を大切にして生きていきたいという想いを込めて、いつも何かしらこのコレクションのアイテムを身につけています」(森さん)
ブーツ / VIRON


フランス・パリ発のブランド「VIRON(ヴィロン)」(Shift C評価:良い)のブーツは、森さんが長年愛用している一足。ポルトガルの工房で職人が一点一点手作業で仕上げている背景に惹かれたほか、廃棄されるりんごの皮からつくられたヴィーガンレザー「アップルスキン」が使われている点にも共感したそう。
「いわゆる“ヴィーガンレザー”は、耐久性の面で物足りなさを感じることが多く、これまであまり手に取ってきませんでした。そんな中、『これは本当に長持ちするよ』と知り合いに勧められて迎え入れた一足が、大正解。履くほどに足に馴染み、心地よさが増していきます。そして何より、その丈夫さには驚かされます!」(森さん)
ブルーシャツ / RE;CODE(韓国)

鮮やかなブルーが印象的なシャツは、韓国のブランド「RE;CODE(レコード)」(Shift C評価:ここから)のもの。急速に移り変わるトレンドに疑問を持ち、ものづくりを丁寧に見直す姿勢から生まれたという。制作数もごく少なく、タグには「Only 7 pieces were made.(7着しか作っていません)」と記されている。さらに、縫製を担当しているのは、定職に就きづらい北朝鮮からの脱北者たち。ものづくりを通じて、彼らに新たな機会を提供している点も森さんが深く共感した理由のひとつ。
「サステナブルであることは大前提。でも、妥協せずに心がときめく服であることも大切。RE;CODEの洋服は、どれも遊び心があって、背中の裏地の配色など、ディテールまでとことんこだわっているんです。私がやりたいのは、まさにこういうことだと共感して迎え入れた一着です」(森さん)
ブラックワンピース / Umlaut

フランスのブランド「Umlaut(ウムラウト)」は、森さんと同年代のフランス人女性3人が立ち上げたブランド。メゾンブランドがコレクション用に仕立てた高品質なデッドストック生地に新たな命を吹き込むことで、クラシックすぎず、現代的なエネルギーを持つウェアへと昇華させている。
「このワンピースは、胸元にレザー、身頃にはキュプラを用いた、異素材のコントラストが魅力の一着です。スリットが大胆に入っていますが、いやらしさはまったくなく、むしろシックで洗練された印象を与えてくれます。異素材の組み合わせで一枚でも十分に存在感があるので、夏はこれ一着で楽しんでいます」(森さん)
CHIFFON TWISTトップス / ISSEY MIYAKE
「ISSEY MIYAKE(イッセイミヤケ)」のトップスは、大学時代の先輩がイッセイミヤケのデザイナーとして活動しているというご縁から迎え入れた一枚。
「黒って本当に奥深い色ですよね。いろんな色がある中でも、一番深くてドラマチック。物語がある、とても楽しい色だと思います。このトップスは、同じ黒でも素材が違うだけでここまで印象が変わるんだということを実感させてくれる一枚です」(森さん)
バッグ / FAÇON JACMIN(ドイツ)

もうひとつの愛用品が、メゾン・マルジェラ出身の姉と、ビジネスバックグラウンドの妹が手がける、ベルギー発のブランド「FAÇON JACMIN(パソンジャク)」(Shift C評価:ここから)。
「まるでデニムジャケットのような、遊び心のあるデザインがお気に入りです。このコンパクトな見た目で、実は大容量。パソコンも入るんです!姉妹でものづくりしているという、ブランドの物語にも惹かれました」(森さん)
デニムスカート / ヴィンテージショップ(高円寺)

デニムスカートは、高円寺にあるヴィンテージショップで購入した一点もの。10歳年下の妹・アンナさんに教えてもらったお店で、現在は高校生の間でも人気を集めているという。刺繍やディテールに手仕事の温かみがあり、価格以上の魅力を放っている。
「この可愛いディテールに一目惚れしました。これをフランスで着用していたとき、偶然居合わせたセレクトショップのバイヤーさんが声をかけてくださって、その方の連絡先を教えてもらえたこともあって。思い出深い一着ですね」(森さん)
“今の自分”に正直に選ぶ、心地よさとスタイルのバランス
「この服を着ていると、自然体でいられる」。
そんなふうに思える服が少しずつ増えていくことで、毎日の装いはもっと自由になる。
トレンドに流されず、自分の感覚を大切にしながら、日々のスタイリングを楽しむ森さん。
ここでは、彼女の感性が映し出されたカプセルワードローブのコーディネートをご紹介。
オーバーサイズジャケットで、マインドを纏う

この日の主役は、森さんの旦那さんがオーダーメイドで仕立てたというオーバーサイズのジャケット。ほんのりとウエストが絞られたレトロなシルエットが気に入り、日々の装いに欠かせない存在になっているそう。ヴィンテージのスカートに、FAÇON JACMINのアイコニックなバッグを合わせれば、森さんらしいバランス感のあるスタイルが完成する。
「『女性だからこうあるべき』『男性だからこうすべき』といった価値観に、ずっと違和感を持っているんです。だからこそ、あえてメンズのアイテムを取り入れることもよくあります。このジャケットも、今の自分のマインドをそのまま映してくれるような存在で、とても気に入っています」(森さん)
芯のある女性らしさを、ハーフパンツで軽やかに

鮮やかなブルーが目を引くシャツに、ハーフパンツを合わせたこの日のスタイルは、軽やかさの中にも芯のある佇まいが感じられる。
ハーフパンツ / L’AUBE BLANC
「L’AUBE BLANC(ローブブラン)」は、森さんの友人でもある楫真梨子氏が手がけるブランド。自身のワードローブでは珍しいシルエットながら、惹かれたのには明確な理由があるという。
「彼女の服は、女性らしいラインを上品に、そして軽やかに表現してくれるんです。そのリズム感のあるシルエットに惹かれて、迎え入れました。そして何より、彼女のものづくりに対する姿勢にも心を動かされます。生地を求めて生産地まで足を運ぶような、丁寧な服づくりが本当に素敵なんです」(森さん)

足元には、ロンドンのブランド「MIISTA」によるブラウンのブーツをセレクト。水色のステッチが効いた遊び心のあるデザインが、ハーフパンツの軽快さと好相性だ。そして、ボリューム感のあるシュシュは、イギリスの「GOOD SQUISH(グッドスクイッシュ)」のもの。デッドストックの生地を使い、一点ずつ丁寧に作られている。
「見た目の可愛さはもちろんですが、『誰かが見過ごした布に、もう一度命を吹き込む』という姿勢に惹かれました。しっかりとしたルールのもとで同じものを作る良さもありますが、今の時代は“偶然の出会い”や“唯一無二”に心が動く瞬間も多くて。これもまさに、そんな出会いから生まれたアイテムです」(森さん)
しなやかに、貫く。自分の“好き”に正直であることが、人生を豊かにする
「人生は短いからこそ、自分が本当に好きなものと暮らす方が楽しいし、豊かだと思うんです。そういうものを自分でちゃんと選んでいくことが、その人の人生になっていくと思います」(森さん)
サステナビリティと聞くと、何かを我慢したり、選択肢を制限されるような印象を抱くかもしれない。しかし、森さんが実践しているのはむしろ逆だ。背景に思いを巡らせながら、自分の“好き”に正直に、心が動くものを丁寧に選ぶ。その繰り返しが、日々の装いをより軽やかに、そして心強くしてくれる。
森さんが「誰に何と言われようと、自分がいいと思った未来を目指して行動する。それが私のやりたいことです」と話すように、信念を持って選ぶファッションは、纏う人の姿勢さえも映し出す。
手に取る一着が、自分らしい人生の小さな一歩になる。
そんな感覚を、あなたも今日から始めてみてはいかがだろうか。