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2019年のリニューアルオープン時から“サステナブル”をテーマに掲げていた

渋谷PARCOでは2021年から毎年、持続可能な”サイクル(循環)”を、最先端のファッションと共に想い巡らせる企画「CYCLE ーSHIBUYA PARCO SUSTAINABILITY」を開催している。
最近のニュースでは6月、スウェーデン発で気鋭のブランド「OUR LEGACY(アワー レガシー)」が2Fに日本初出店。それに際し、4月18日のライブストリーミングスタジオ「DOMMUNE」でのスペシャル番組も話題になった。アワー レガシーはインデペンデントな世界的ブームを牽引して熱烈なファンを増やし、サステナビリティを軸に、あらゆるブランドのデッドストックやサンプル品、リサイクル素材を再利用するプロジェクト「ワークショップ」も展開中だ。
既に出店している「ステラ マッカートニー」「ガニー」「ジルサンダー」といったご存知のブランドたちの環境意識高いのは言わずもがな。以前より出店している日本発のアンダーカバーは、Shift Cの母体である、みんな電力のユーザーである。
今回は渋谷PARCO全体のディレクションを手がける店長の平松有吾さんに、渋谷PARCOが仕掛けるサステナの背景に何があるか、聞いた。

渋谷PARCO店長・平松有吾
1977年生まれ、立命館大学卒。2004年パルコ入社後、渋谷PARCOで東コレブランドや路面系ショップなどの誘致を手がげる。2010年福岡PARCO及びパルコ初の自主編集ショップ「ミツカルストア」を立ち上げ。2017年から新生渋谷PARCO準備室でコンセプト策定、リーシング、新業態開発、WEB・SNS戦略立案を担当。2019年の開業後もフロアリニューアルや宣伝、ブランディングを推進。2024年3月より現職。
――今回は「アワー レガシー」など、渋谷PARCOのサステナブルな取り組みを中心に伺いたいと思ってきました。「CYCLE(循環)」というのも、すごく面白い取り組みです。
スタートから5年、コンセプトが出店ブランドの皆様、お客様に少しずつ定着してきました。
でもそもそも新生渋谷PARCOをつくる時に、コンセプトに「サステナブル」は最初から掲げているんです。(渋谷PARCO店長・平松有吾さん、以下同)

――2019年からということですね。
ただ、まだ全然浸透をしていないというのをずっと感じながらやっています。
最初は、4階フロアのエレベーター付近にお直しのお店、買い取りの店、それからリペアのシュークリーニングの店に出店いただきました。あの当時はまだインバウンドもそこまで来ていなくて、”渋谷PARCOの再構築”というところから「唯一無二」「ファッションのネクスト提案」、あとは「体験型消費」「インバウンド」「ICTインキュベーション」。そこに加えて「サステナブル」を謳っていました。
CYCLEも、2021年3月が第一回目。だから当時、各社さんに「CYCLEに関連する企画をやって欲しい」ということで用意いただき、それをもう5年続けています。
――2019年の段階で、どうして「サステナブル」がコンセプトに入ったんでしょうか。
新たに渋谷PARCOをつくる際、僕らがキーマンだと思うファッション関係者50人の方々に「どういうビルがあったらいいか」と聞いて回っていたのが2017年です。その時に諸々探っていく中で、「ファッションをもう一回再構築したい」、「服の持っているパワーを改めて打ち出したい」という気持ちになっていったんです。
当時ファッションを追求していくとその先に何があるかという話の中で、わりと早い段階でキーマンの方々から、「服って、やっていくことでマイナス点もある」「つくり続けていく中で、ブランドを発掘するのも含めて、どう産業として長く続けていけるか」という話が出てきました。
やっぱり渋谷PARCOは「ファッションの次を考えるビル」ということを謳っている以上、「サステナブル」は切っても切り離せない。それで、これを一つのキーワードとして立てることから始まっているんです。

――渋谷PARCOが新しくどんどん変わってるというよりも、当初からのコンセプトがじわじわ進化してきたのが、CYCLEやアワー レガシーの出店に結実しているし、今もまだその通過点というわけですね。
2021年、初開催のCYCLEはキービジュアルに水原希子さんが撮影した写真を使わせてもらいました。希子さんからコロナ禍に、ロードトリップしたアメリカで撮りためた写真で「その写真集を発表したい」という相談を受けて、PARCO出版で写真集をつくったんです。彼女の感覚や伝えたいメッセージを企画と連動させて、PARCOミュージアムで写真展もやったんですね。
当時、例えばグッチだと、ちょうど再生ナイロンを使ったシリーズを打ち出されていたので、ウチの店に商品を結構集めてもらったり、あとは「ハンドクラフト」というテーマで、ロエベがやっていることを広い意味で捉えて「手仕事の重要性」として出していったり、他にもヒューマンメイドや、ブラジルの廃材からサンダルをつくられているオスクレンにはPOP-UPをやってもらったり。
ですので、身近に繋がるファッションとかカルチャーを経由して、サステナブルなメッセージを発信した方がいいという想いで、ずっとやってきています。
インターナショナルな感覚で浸透させる
――でもまだ「浸透してない」という感覚があるんですね。
「面白いから」とか、「カッコいいから」というところで入ってきているところはすごくあると思いますし、コア層は逆に言うと、そこにすごく意識が高いと思います。
渋谷PARCOのお客さまの平均年齢は32歳です。特に今の20〜30代前半ぐらいの方は、何かモノを選ぶとか、自分が何かをするっていう時に、そういう(サステナブルな)点も見て、動いているな、という感じがします。 渋谷PARCOに来ている多くの人たちが、このCYCLEの企画を目がけて来ているかというと、そこまでではない。
――例えばステラ マッカートニーの取り組みは言わずもがなというのもあるし、ビッグメゾンも電気の切り替えの話とか「実際、世界的にも動いてるな、考えてるな」というのはあっても、もっと話題や当たり前になっていいのにと思うんです。その辺り、ジワジワとは確実にきていても、まだ起爆剤がない感じでしょうか?
「わかりにくさ」はあると思います。日本は消費流通も含めて、いろいろな産業構造が複雑ですよね。 卸しがとても発達していて、広告代理店みたいな機能も含めて、つくっている人と消費者の間に媒介するものがあまりにも多い。だから、実際のリアリティを持ってつくっている人と消費する人が繋がる機会が少ないと思います。
渋谷PARCOはおかげさまで今すごく順調で、国内外の多く方々から支持をいただいており、今年の春から続く、改装では「グローバルニッチ」というテーマを掲げました。
海外売上想定額の比率が40%で、来店者数はそれ以上かもしれない。そこからすると、我々も「インターナショナルな感覚」を意識しているので、そうなると日本人ではあるけど、インターナショナルに生きている世代がどんどん増えてくる。
コロナによるピンチの転換

――思い返せば、ようやく再オープンというタイミングで早々にコロナ禍がはじまりました。
そこは予期していなかったことでした。 わりと「チャレンジングなビルをつくろう」という姿勢のマイナス面として、初めて商業施設に店舗を出店するブランドさんも多くいらっしゃったので、コロナ禍の店舗の維持が大変でした。
ですが蓋を開けてみると、どちらかというと1〜3階を中心にした小規模ながらも差別性の高いテナントさんの売上が安定しており、全国展開している大手テナントさんが、超都心への来街離れから苦戦して退店するという企業判断が相次ぎました。
それでつくったのが今の4階フロア自体の、「ヴィンテージ&サステナブル」というテーマ。都市の遊休施設を一時的に占有し、新たな価値を生み出す空間を生み出している、SKWATと一緒につくり上げました。それで内装が全部、そのオレンジのグラフィックペーパーで空間をラップしてしまって、もう新たに店をつくらなくても、什器さえ持ち込めば展開できる売り場をつくって、そこにヴィンテージ総合プラットフォームとして、日本中のショップを集めているVCMのリアルショップを持ち込みました。
あとはネストローブ、ここは「ものすごいな」と今も思っているんですけど、端材だとか端切れを全部紡績にかけて、もう一回生地につくり替えて、そこから服をつくっているんです。ここはたぶん今日本で一番そのあたりがしっかりできている。
――日本のブランドですか?
はい。本社は徳島にあって、今はここに皆さん教えを請いに行っているようです。
――コロナ禍きっかけで、悲しいかな、撤退せざるをえない店舗もありつつ、結果としてサステナブル部分がより強化され、そこで強くテーマを打ち出せたように思えます。
だから当然、現代社会のことを考えるとても大事なキーワードでもありつつ、もっと「関心あるもの」「付加価値として捉えている層がいるな」という感覚も持てた。また実際にそこを付加価値としてかたちにしていった時、純粋に面白い、かっこいいという気持ちに「感化させられるんじゃないかな」と思ってやっています。
――皆さん実際に感化されているでしょうか。
だからといって、じゃあ「私、サステナブルやってます」みたいな言い方をお客さんもしません。ただ購買行動の選択肢として、売り場が変わったことによって、売り上げも大きく変わった。もちろんそこには購入する上での、色々な理由もあるでしょう。でもそういった、サステナブルの要素も少なからずあったんじゃないかと思うんです。
そこは派手に出てこなくていいと思います。その方が自然だし、そこをどうやって汲み取るかみたいなことの方が大切。だから例えば、普段の会話の中で「(水原)希子ちゃんがこの間インスタで、こんな売り場できたから、週末行ってみよう」という、実際に女の子たちが話して来ている可能性だってある。
実際に10階のイベントスペースで彼女のフリマを2度開催しました。フリマ開催中に、希子さんが来場者の方々と、実体験をきっかけに、自然を守るためのサステナブルな活動をしたい、と会話されているシーンもあったんです。それを「いいな」と思って見ていました。
日本で繋がり、価値観を世界へ
――逆に、渋谷PARCOの感覚として、ファッションをやってるんだけど別領域で必要なこととか、洋服だけだとここが伝わりきらない「どうしてもここが抜け落ちる」みたいなことはありませんか。
ファッションやカルチャーをどうビジネスと繋げていくか、そのなかで社会的な要素をどう反映させるかが重要だと考えています。そこで今足りてないこと、問題意識として感じることで言うと、どうやったらこの「日本のファッションが世界にもっと浸透していくのか」。
言語の問題はありますが、これだけ日本の国の状況、経済がどんどんシュリンクしちゃいがちなところを、どのようにファッションや百貨店、消費行動を通じてキープし、拡大するかですね。
――先ほどのネストローブさんのような存在をはじめ、国内に解決策、健全化できる方々がいる。しかもそこに大手も気づいて、意識がいってるというのは頼もしい話に聞こえます。
そこが、日本がシュリンクするだけじゃない、海外に持っていける価値、強みや可能性になるというのは感じますか。
あります。CYCLEという一つのテーマにしても年々、自分たちから見ていても充実してきていると思います。そこにファンの方々がちゃんと集まってきてくれて、そういった企画のつくり方とかを海外に持っていけないか、そのチャンスを探れないかというのは、すごくあります。
――それこそアワー レガシーもスウェーデン発で、そういったところと拮抗できる、日本発こその価値が国外で重宝される手応えはありますか。
ブランドさんが渋谷PARCOに「出店する」という選択肢の中に、我々が「サステナブル」に対しての意識を持っていることを、重要なポイントとして捉えてくださっていると感じています。
そのうえで、他にはない面白い取り組みをやっているという点を魅力に感じてもらえている。
おそらく、そういった総合的な評価でブランドさんもお客様も見てくださっているのではないかと感じています。
それぞれの感覚値がどんどん広がっているので、そこをもっともっと広げられたらなと思っています。

――サステナブル一辺倒でもない、むしろ全体としての総合力が効果的なんですね。
THE NORTH FACE LABのSpiberとのシリーズが今年から、しっかり量産可能な商品として、安定して展開されだしました。個人的にはそれが店頭に並んでいる様子は、とても嬉しいんです。なぜかと言うと、 そこは彼らのしっかりした企業活動として広がった領域です。実際研究開発をずっと続けているから、商品のレベルも上がった。
彼らが目指している「化石燃料じゃないかたちでの服づくり」が、どんどん広がっているのは確かです。以前はこんなラインナップ出せなかった。まず量がつくれないし、扱いも難しいので製品化できないというのが多かったんです。
――「サステナだから」モノを買ってくれるわけではないし、「これステキ」「しかもサステナだったんだ」という、そういうものがたくさん見つかるのが渋谷PARCOさんなんだと思います。 それにしてもCYCLEが充実しています。
ステラ マッカートニーや、ジルサンダー+というラインはサスティナブル意識を高く保っていますし、やっぱりリニューアルオープンした19年当時にはなかったラインナップの中で、そこに力を入れている方々が増え、我々にも「できる要素が増えてるな」と思っています。
現場に近いからこその手応え

――このような取り組みで考えると、渋谷PARCOとしては、現場により近いところから発信している印象です。
例えばエコ・レザーの使用比率にしても、「売り場全体を測ったら何%あるのか」みたいなことが今後指標として出てきてもいいと思うんです。今はもう、だいぶグッチやガニーにしても、そういうことをやってきている。そういう打ち出しの方が、お客さんに響く気がしています。
戦争に反対する意思を示すために、あえてブランド側がコレクションでアーミーモチーフを活用することで、社会的なメッセージとして伝えてきたような歴史もありました。
だからサステナブルみたいなものも、それに近いところがある。つまり、そのブランドの姿勢とかデザイナーさんのかっこよさや考え方が伝わる一つのツールとして定着していった方が、もっと普段からの意識が上がるんじゃないかと思います。
本当に例えばですが、ヴィンテージ古着に関しては、収集品という切り口で言うと、日本は世界最大の集積地の一つです。これだけ古着屋が多いことや、その側面をもうちょっと分解して世の中に提案していくみたいなことこそ、社会的に広がって欲しい。その上で「セカンドハンドって面白い、いいんだよ」みたいなことが起きてもいいんじゃないかと思います。
アワー レガシーのサステナブルなプロジェクト「OUR LEGACY WORK SHOP」では、過去に彼らが使用した素材や生地の余りを、新たなアイテムに展開しています。
ファッション産業のシーズンごとに制作するフロー(毎シーズンごとに作り消費する)とは、異なることに真剣に取り組んでいる。そんなブランドの姿勢に、特に今の若い世代はある種の憧れのようなものを感じているのだと思います。


――あるテーマを語ったり料理する切り口が「面白い」と思ったら「それ買った!」という。
彼らのコラボレーションの一例が、ちょうどこの間DOVER STREET MARKET GINZAで展開していた、アルマーニとのワークショップでした。
アルマーニというのが絶妙で、最近では高円寺に行くと結構探してる人がいて価格が高くなっています。あえてクラシックにも感じるアルマーニとの取り組みが「アワー レガシー、今度はアルマーニと。その絶妙さがかっこいい」という流れで支持を集めている。
実際にアルマーニが彼らを工場に招待して、眠ってる過去の生地などを使って新たに服を作っていくこと、その姿勢がすごく面白いと思います。
――なるほど。
自然な流れの中で、我々が扱うものに北欧系のブランドが増えています。ここ数年のパリを中心にした「ハイブランドによるビジネスの量的拡大」とは違うなにかを探していたら、気付くと、北欧のブランドはサステナブル意識がどこも高いですし、ライフスタイルとファッションが強く結び付いている。
そこの感覚は自然と、僕らが今なんとなく「そういうものを欲しい」と思っていることとシンクロしているような気がします。
――北欧の方々はそういった価値観を長く大切にしてきて、それがやっと結実して世界に伝えられる体力もついてきた、そういった感覚でしょうか。
そうですね。
――かたやエネルギーも食も、何も自給できていない日本(泣)。アワー レガシーの次のワークショップはいつでしょう。
不定期なので、またやるのは彼らの「気分が乗ったら」という、そのコントロールしきれない感じもいいんですよね(笑)。