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捨てられていく傘が、環境に与える負荷とは
雨の日の必需品であるビニール傘。安価でどこでも手に入る一方、日本では毎年約8,000万本が消費されており、その多くが半年以内に廃棄されているという現実がある。

街中で壊れたまま捨てられている光景に見覚えがある人も多いだろう。
ビニール傘は構造上、金属・プラスチック・布など複数の素材が組み合わさっているため、分解に手間がかかり、リサイクルには不向きとされている。特に生地部分に塩化ビニールが使われている場合、焼却時にダイオキシンが発生するおそれもあり、多くが埋め立て処分されるのが現状だ。
この現実に課題意識を抱き、行動に移したのが「octangle(オクタングル)」を立ち上げた水谷哲朗氏だ。
「ビニール傘は、まだ使える状態でも簡単に捨てられてしまう使い捨ての象徴のような存在。こうして“ごみ”となった傘の多くが、海外で埋め立てられているという現実を知りました」(水谷氏)
この気づきが、長年の現場経験や幼少期の原体験と重なり、ブランド立ち上げへとつながっていく。
廃棄を見つめ直した先に生まれた、アップサイクルブランド
ビニール傘の現状に強い問題意識を抱いた水谷氏が行動を起こすまでの背景には、長年の現場経験とものづくりへの想いがあった。
約20年間にわたって商業施設やイベント会場の空間演出に携わるなかで、一時的なプロモーションが終わるたびに大量のディスプレイや装飾物が産業廃棄物として処理されていく現状を目の当たりにしてきたという。
「会期が終われば、当然のようにすべてが捨てられていく。そんな業界の慣習に、以前からもったいなさや違和感を感じていました」(水谷氏)

コロナ禍でイベントが次々と中止になったことをきっかけに、自身の働き方や社会との関わりを見直す時間が生まれた。「何かを変えたい」と模索していたときに出会ったのが“アップサイクル”という概念だった。また、幼い頃から鍛冶屋を営む父の背中を見て育ったこともあり、モノづくりへの愛着や尊敬の気持ちが、自然と自身のなかに根づいていったという。
「社会に存在する廃材に新しい命を吹き込むようなものづくりを通して、“もったいない”を価値あるものに変えていきたい。そんな想いからブランドの構想がはじまりました」(水谷氏)

そして2022年8月、役目を終えたモノに洗練されたデザインや機能性を与え、新しい付加価値を創造するアップサイクルブランド「octangle(オクタングル)」を立ち上げた。数ある廃材の中からビニール傘に着目したのは、「多くの人にアップサイクルの意義を届けるには、日常的で身近な素材が良い」と考えたから。
「傘の八角形を意味するブランド名には、活動が八方に広がり、身近なことから大切な人の未来を守ることにつながれば、という想いを込めました」(水谷氏)
独自素材で新たな命を吹き込むバッグへ
octangleは、役割を終えたビニール傘を独自ルートで回収し、分解・洗浄・消毒したのち、専用のプレス機で何層にも圧着することで、独自の再生素材を開発している。
この再生素材は、半透明で凹凸のある質感が特徴。光に反射するとキラキラと輝き、水や汚れに強く、軽量で丈夫という特性も備えており、日常使いに適したバッグへと生まれ変わっていく。

ブランド設立当初は、再利用する傘の調達に苦労したというが、現在では鉄道会社や商業施設などから、忘れ物として廃棄予定だったビニール傘の提供を受けるなど、共感の輪が広がりつつある。
そして、再生素材の製造には、従来のプロダクトに比べてはるかに手間と時間がかかる。使用済みで汚れてしまったビニール傘は、一本ずつ状態を確認しながら選別・解体・洗浄。その後、特殊なプレス機を使って何層にも重ね、圧着していく。このプロセスは、主に福祉作業所の方々と連携して行われており、就労支援にもつながっている。
「環境に優しいだけでなく、誰かのためになるものづくりを大切にしたい。福祉作業所との協働は、社会的な価値にもつながっていると感じています」(水谷氏)

素材となるビニールは厚みや質感が一本ずつ異なるため、機械での裁断が難しい。分解・圧着・裁断・縫製・検品まで、すべての工程に高い技術と丁寧な手仕事が注がれている。
「octangleの商品は、『環境に配慮しているから良い』ということではなく、 環境配慮は当たり前の前提として捉えています。その上で、デザイン性やトレンド感も大切にしながら、 ファッションやライフスタイルに自然と馴染むアイテムを提案しています」(水谷氏)
バッグやアクセサリー、フラワーアイテムなど、素材とアイデアのかけ合わせから生まれるoctangleのプロダクトには、作り手の想いや背景が込められている。
暮らしに彩りを添える、サステナブルバッグ
第一弾アイテムとして展開されたのは、ビニール傘をアップサイクルして生まれたサステナブルバッグ。
お花のラッピングにもなる「フラワーバッグ」や、使い捨て傘袋に代わる「アンブレラバッグ」など、実用性とデザイン性を兼ね備えたアイテムが揃う。

たとえば「Trapezoid bag(フラワーバッグ)」は、台形のフォルムとカラー持ち手が印象的な一品。見た目の可愛さに加え、水や汚れに強い素材を活かして、花束のラッピング代わりとして使ったり、そのまま部屋に飾ってインテリアとして楽しんだりと、さまざまな使い方ができる。Trapezoid bagを持参することで、ごみの削減にもつながるのが魅力だ。

一方、「umbrellaスマホショルダー」は、スリムで洗練されたシルエットが魅力のクロスボディタイプ。スマホや小物を肩から提げて身軽に出かけられる、日常使いにぴったりのアイテムだ。水や汚れに強く、丈夫で壊れにくいという素材の特性を活かしながら、スタイリッシュな見た目にもこだわっている。
また、紐の長さ調整が可能なため、体格やスタイリングに合わせてアレンジできるのも嬉しいポイント。前面と背面のポケットにはカードや鍵などを分けて収納できるため、アウトドアやフェスなどアクティブなシーンでも活躍してくれる。
下北沢「みんな商店」でのポップアップも開催中
現在、octangleの一部商品は下北沢駅近くのセレクトショップ「みんな商店」にて、2025年7月31日まで出店中だ。
2階のポップアップスペースでは、「MINNA SELECTION」としてブランドにフォーカス。
今回のテーマは「雨の日も、暑い日も。気持ちまで晴れる夏じたく」。気分が上がる夏の準備をテーマに、選りすぐりのブランドが紹介されている。
実際に素材の質感や色のバリエーションを手に取りながら、自分だけの一点物と出会える貴重な機会。
サステナブルなだけでなく、使っていて気持ちも晴れるバッグを探しに、ぜひ立ち寄ってみてほしい。
少し先の未来を変える選択肢として

octangleは、今後ビニール傘に限らず、ディスプレイ業界など他分野にも目を向けながら、日々の暮らしのなかで少し先の未来を変える選択肢を提案していく予定だ。
現在は、新たな挑戦として海洋プラスチックごみ問題にも焦点を当てたアップサイクルプロジェクトの立ち上げを準備中だという。また、大阪・関西万博では、大学生やアーティスト、企業など多様な共創メンバーとともにアート制作にも取り組む予定だ。
「『ごみという概念のない社会』の実現を目指し、産学官連携、福祉施設、クリエイター、アーティストなど、さまざまな分野とのパートナーシップを広げながら、共創によるシナジーを生み出していきたい」と語る水谷氏。octangleの挑戦は、社会の境界線を越えて広がり続けている。
お問合せ先
HP https://www.octangle.jp
Instagram https://www.instagram.com/octangle_official
メール info@octangle.co.jp