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秋に採った種を、春の畑にまく。服を作るための命の循環
国産のオーガニックコットンを使ってシャツやスウェットを作る「M.INAMI」。日本ではほぼ全てのコットンを輸入に頼っており、国産のコットンは本当にわずかな量しか流通していない。しかもそれを福島県の南相馬の農園で、自ら畑に入って育てているのがM.INAMIの南祐太さんだ。
福島県いわき市出身の松井さんにとって、南相馬は「お隣さんのようなもの」。そんなご縁もあって昨秋の収穫に参加し、この春は種まきも行くことになった。
まだ少し肌寒さが残る6月の半ば。コットン畑にはマルチと呼ばれるシートで覆われた畝が作られていて、このシートに穴をあけて、数粒ずつ種を入れていく。
「去年私が摘んだコットンに、この種が入っていたんですね。こんなに小さな種が、秋にはあの一面のふわふわの白いコットン畑になるなんて!」と、11月の収穫とまったく違う風景に驚く松井さん。

松井さんも参加した秋の収穫で、昨年は10キロのオーガニックコットンが採れた。ふわふわの原綿は日本各地の工場で糸に紡がれ、生地に織られ、シャツやパーカー、デニムなどに仕立てられていく。シャツを仕立てている「ひなた工房」は同じ南相馬市にある。
「10キロといってもTシャツにしたらたった3枚分なんです。しかも100%福島コットンで作るとなると、価格は百万越えになってしまう(笑) だから、シャツやデニムに使っている福島コットンは2%程度です。でも、この福島コットンに関わる人が増えて、国産のオーガニックコットンの存在が広まってくれればいいと思っています」と南さん。

自分でまいた種からできる服って、格別に愛おしい
松井さんがこの日着たGジャンとパンツは、横糸に生成り色の福島コットンが使われ、縦糸にインディゴの糸が使われている。デニム産地として有名な広島県児島の工場で作られた。使用されている福島コットンは、2年前にこの畑で収穫されたものだ。松井さんが今日まいた種は、数年後に新たな服になり、だれかが袖を通すだろう。
「自分が蒔いた種から作られた服って、愛おしさが格別ですよね。着るたびに福島のこの風景を思い出すと思います。季節ごとに作業に関わらせていただいているから、春の種まき、秋の収穫、いろんな景色が積み重なっていきます。 次はコットンからどのように服が作られるのか、見に行ってみたくなりました」
緑が一段と濃くなった6月。畑に続く森では鳥たちの声が響き、あぜ道にはバッタやトンボが飛び回る。田んぼではまだ小さな稲が、海からの風にたくましく吹かれている。初夏の農園は、騒々しいくらいいろんな命のざわめきに満ちて、実りの秋とはまた違う風景を見せてくれる。
「自然のなかで思いっきり深呼吸できるこういう時間は、福島育ちの私にとって最高のひとときで、ご褒美なんです」

種まき期のもうひとつの楽しみが、ブルーベリー狩り
オーガニックコットン畑がある「みさき未来」農園には、この時期もうひとつのお楽しみがある。それがブルーベリー狩り。太陽光パネルの下でブルーベリーを育てる「ソーラーシェアリング」のシステムを導入していて、太陽の恵みをシェアして、CO2ゼロの電力と、大粒のブルーベリーを作っている。コットンと同じく無農薬のブルーベリーは「甘酸っぱくて濃厚! これからもっとたくさん実がなったブルーベリー畑の景色も楽しみですね。」(松井さん)と、絶品だ。

また、このソーラーシェアリングなどで「みさき未来」が作っている電力は、Shift Cの運営会社であるUPDATERの「みんな電力」が仕入れ、家庭やオフィスにCO2ゼロの再生可能エネルギーを届けている。「顔の見える発電所」として毎月応援金が送れるシステムもあるのでぜひチェックしてみてほしい。
実は「みさき未来」農園がある南相馬市は、東日本大震災の津波によって一時は海の底に沈んだ土地だ。停電した町から住民が一斉避難し、町や田畑を飲み込んだ海水はそのままに放置され、1年以上水に浸かったままだったという。その海水を汲み出し、ガレキを撤去し、除染して新しい土を入れるところから「みさき未来」農園は再生した。今では最新の農業機器を使って不耕起栽培やソーラーシェアリングを実践するなど、一歩どころか何歩も先を行く、未来型の環境再生型農法の実験場のようになっている。人の手が入ることで蘇った里山には、絶滅危惧種などの希少な野生生物が戻り、さまざまな命がひしめく生き物の楽園へと変わりつつある。
福島コットンのプロジェクトは、ここ南相馬だけでなくお隣の飯館村でも進行中だ。南さんはこう語る。
「僕自身、取引先の畑があったことやサーフィンのために福島を訪れ、自然や食など土地の魅力にはまったんです。コットンの種まきや収穫などをきかっけに、実際に福島を訪れる人を増やして、福島をもっと元気にしたい、そんな思いもあります」
この日の種まきにはM.INAMIのシャツをきっかけに福島コットンを知った人たちが、東京や千葉からも集まり、総勢40人での種まきになった。作業のあとは、採れたての野菜や自慢のお米など、地元食材をふんだんに使った豪華ランチの時間。地元のお母さんたちが腕をふるう料理に「おいしい!」と歓声があがり、農園ににぎやかな声が響く。都心で暮らす参加者にとって、種まきや収穫など季節ごとのイベントは、福島の自然や歴史と繋がることができるまたとない機会だ。それは松井さんにとっても同じこと。
「ランチも訪れる際の楽しみの1つです。福島の野菜がたくさん使われていて、手の込んだ料理も素材の味をそのまま食べるシンプルな料理もどれもおいしくて…たくさん食べてしまいます。贅沢な食事に種まきと、みなさんの温かさを感じながら今日植えた種がどう育って、その後どんな服に変わるのか。ワクワクします! また福島に帰って来る楽しみが増えました」
南相馬で行きたかった、もうひとつの場所
種まきとおいしいランチを満喫して、最後にもう1カ所、松井さんが立ち寄りたかった場所が「道の駅なみえ」だ。地域の特産品や工芸品が並び、この日は週末ともあって観光客や地元の人で大賑わい。
「実はこれも楽しみで」とまっしぐらに向かったのが、鈴木酒造店のカフェで販売する「甘酒ソフト」。地酒「磐城壽(いわきことぶき)」で知られる江戸時代から続く老舗の酒蔵で、震災後に山形で酒造りを続けていたが、道の駅のオープン後にここに蔵を構えて醸造している。磐城寿の升に入ったソフトクリームをひと口食べて松井さんの笑顔がはじけた。
「道の駅が大好きなんです。その場所で作られた野菜や果物、お菓子や名物などおいしいものがたくさん置いてあって、いつもつい買いすぎてしまいます」。またひとつ、南相馬に来る楽しみが増えたようだ。

M.INAMI
TADORiで商品を見る
https://www.shop.tadori.jp/shops/23
https://www.instagram.com/m.inami_shirts.and.other_
みさき未来農園(ブルーベリーパークぴぽぱ)
福島県南相馬市小高区井田川字西迫137-1
https://www.instagram.com/blueberrypark_pipopa
※ブルーベリー狩りの申し込みはこちら
道の駅なみえ
福島県双葉郡浪江町幾世橋知命寺60
https://michinoeki-namie.jp/