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カード会社Visaが取り組む、行動インサイトから見える、未来へのヒント
「なぜVisaがサステナビリティに取り組むのか?」そんな疑問を持つ人もいるかもしれない。しかし今、サステナブルな未来をつくるうえで、消費とブランド、そしてテクノロジーの交差点に立つ存在として、Visaが大きな役割を果たすという。
ここ数年で、消費者の価値観や購買行動は大きく変化してきた一方で、いま業界全体が直面しているのが「意識と行動のギャップ」という壁だ。
その障壁を超えるための答えを出す一環として行動インサイト・ラボ(Behavioral Insights Lab)をエレンマッカーサー財団などと連携し立ち上げ、「どんなナッジ(人々が望ましい行動を自発的に選べるよう促す手法)があれば、消費者は“もっとサステナブルな購入”に踏み出せるのか?」を企業と共に研究している。
その一例として紹介されたのが、あるブランドが自社のリセールサイトへの流入増を目指して行ったマーケティング戦略だ。
「ステータス」「バリュー(価格的な価値)」「コミュニティ」という3つの切り口でメッセージを打ち出し、それぞれの効果を検証したところ、他の世代は「バリュー」「ステータス」だったのに対して、Z世代・ミレニアル世代には「コミュニティ」が最も強く響き、サイトのクリック率を約22%押し上げたという。
このようにVisaは、レンタル、リフィル、リペアといった循環型の消費体験を広げていく中で、「人々の心に響くメッセージとは何か?」を見極め、企業が消費者とのつながりを深め、行動を変えるためのサポートを行っているのだ。

修理があたりまえになる社会の実現へ!ソーシャルグッドとビジネスのバランスを実現するための4つの取り組み
そのVisaと協業するのは、「修理があたりまえになる社会」を目指すオランダ発の服のお直しサービス、ユナイテッド・リペア・センターだ。
年間1000億枚の衣類廃棄問題では環境面に注目が集まるが、共同代表のカースセンス氏は「人」の側面が見過ごされていると指摘。
同社では難民や新規移民など就労困難な人々を雇用し、修繕を通じて社会参加と技能継承を支えているという。単なる意識改革にとどまらず、人の尊厳や技術の再評価に光を当て、「手を動かす人」が主役の循環型社会を目指しているのだ。
また、そのミッションを達成するため、「ユーザー体験」「価格」「スピード」「品質」という4つの大きな障壁の解消に向けて以下の具体的な取り組みを進めている。
- 簡単で心地よい修理体験をつくる
「修理を頼むのが面倒」というハードルを下げるため、オムニチャネルでの受付体制を整備。例えば、Rofa(ローファ)との連携では、店舗・コールセンター・オンラインのいずれからでも修理依頼が可能。消費者は随時更新される修理の進捗の確認が可能。 - コストを抑えるためにスケールさせる
新品より修理のほうが割高になりがちな現状で、「価格」は大きな課題。
だが、ボリュームを増やしてスケールさせることで、修理コストの低減を実現しようと試みている。 - 「7日以内」のスピードが鍵
即日配達が当たり前の時代に、「修理は時間がかかる」という印象がネックとなっており、「注文から7日以内に戻ってくる」ことが、ユーザーの許容範囲という調査結果がある。現在、Levi’s(リーバイス)と共同で3〜4日での修理返却に向けた実証実験も進行中。 - 品質と“選べる修理体験”
修理基準を満たすことは当然として、「期待値を明確に伝えること」が重要。たとえば「どんな修理になるのか」「どのくらい時間がかかるのか」など、選択肢と事前説明があれば、満足度は飛躍的に向上する。
さらに、クリエイティブな修理を提案できれば、それは単なる修理ではなく、”予想を超えた体験”として顧客に新たな価値をもたらす可能性もある。

「新しい服を作らずに、どうやって利益を生み出せるのか?」エレンマッカーサー財団が追い求める答えに迫る
エレン・マッカーサー財団のレニエラ・オドネル氏は、 「新しい服を作らずに、どうやって利益を生み出せるのか?」という問いを出発点に1年前に立ち上げられたThe Fashion ReModelのプロジェクトについて紹介した。
この問いに対し、同財団は「サーキュラービジネスモデル(レンタル・リセール(再販)・修理・リメイク)の拡大」という共通の目的を掲げ、ブランドの参加を呼びかけたという。プロジェクト開始時は8つのブランドからスタートしたが、この1年で新たに5ブランドが加わり、現在は13ブランドが参加しているという。
このプロジェクトは大きく以下の2つの柱で進められている
- 各ブランドが「今後3年間でサーキュラービジネスから得る収益を増やす」という具体的な目標を設定
次の数年間において、財団がブランドごとに設定された目標に対して、データを追跡し、その進捗を可視化する支援を行う。 - 循環型ビジネスモデルの価値を評価・貢献できるような指標の開発
この指標は、気候変動や経済的側面に関連した様々な要素を定量化し、循環型モデルを財務的に実現可能なものとして捉えるためのツールとして利用され、「顧客」「レジリエンス(事業の回復力)」「気候」の3つの視点に大きく分けられる。
オドネル氏は、すでにいくつかの加盟ブランドにおいてリセール販売の割合が拡大していると述べ、業界全体に対しては、表面的な対応ではなく、循環型のビジネスモデルを企業の中核に組み込むことの重要性を強調した。
このあと、各社の取り組みや考えについて20分ほどの質疑応答を経て、会場の参加者同士が各テーブルに分かれ、自らの考えを共有する時間が設けられた。

EU・中東の調査から読み解く消費者意識から行動のギャップ
2日目に開催されたセッション「Who Cares? Closing the Consumer Gap is about to start(誰が気にする? 消費者ギャップの是正が始まる)」では、日本でも人気のサステナブルファッションブランドGANNIのローレン・バートリー氏や、ヨーロッパを中心に展開するオンラインショッピングサイトZalandoのパスカル・ブラン氏らが登壇。
「サステナブルな商品を選びたい」という消費者の意識と、実際には利便性や価格が優先されがちな消費行動とのギャップに焦点を当てた議論が繰り広げられた。

冒頭では、Zalandoのブラン氏から、6月3日に公表されたばかりのレポート「It takes many」の調査結果が紹介された。
ブラン氏は、2021年の調査では、サステナビリティに関する情報に対する顧客の受け止め方について、矛盾していたり複雑すぎる情報に「圧倒され困惑していた」のに対し、現在はむしろ「情報が不足している」と感じていると語った。
また、「ファッション業界の課題に対して誰が責任を負うべきか」という問いに対しては、77%がブランドに責任があると回答したが、それだけではなく、72%の顧客が自分たち個人にも責任があると認識しており、さらに66%が政府などの政策決定者が責任を担うべきだと考えていることが明らかになったという。

これらの調査結果を受け、レイヒー氏は投資家の視点から、「顧客の意識と行動のギャップを埋めるためには、2つの要素が原動力となる」と述べた。
1つ目は、「戦略的な視点」だ。
レイヒー氏は、マーケティングやサステナビリティを語る際に、依然として多くのブランドが「消費者を中心に据えていない」と指摘。
その背景には、消費者が行動する際の動機や価値観の微妙な違いに踏み込めていない現状があるという。
たとえば、「サステナビリティに関心がありますか?」「サステナブルな商品に追加料金を払いますか?」といった問いだけでは、消費者が実際に何に心を動かされ、購買に至るのかを把握することは難しい。
そこで、レイヒー氏は、企業が健康面のメリットや機能的価値を訴求する際に用いるのと同じアプローチを、サステナビリティを軸にしたブランドやマーケティング戦略にも適用すべきだと提案する。
実際に、同社が投資しているブランドでは、フォーカスグループやデータ分析の質を高め、製品やカテゴリー単位で実用的なインサイトを得ることで、戦略の進化・変化がすでに始まっているという。
2つ目は、「社会のシステム」、つまり政策や規制の存在だ。
グリーンクレーム指令(Green Claims Directive)やデジタル・プロダクト・パスポート(DPP)といった施策が進むことで、業界と消費者の間のコミュニケーションは、より具体的かつ製品に根ざしたものへと進化していくと語った。

マーケティングと信憑性のバランスを探りながら、メッセージを届け続ける
また、サステナブルファッションブランドとして大きく成長を遂げている GANNI(ガニー)のローレン氏は、日々、顧客とのコミュニケーションの難しさに直面していると語った。
発信する一つひとつのメッセージについて、過剰な表現になっていないか、グリーンウォッシュと捉えられないか、また、数値や事実に基づいた言葉がかえって消費者との距離を生んでいないかといった葛藤や懸念について、社内で常に議論を重ねているという。

さらに今後のブランドコミュニケーションについてローレン氏は、業界全体として、多くのブランドが依然としてサステナビリティに関する情報発信に慎重で、一歩を踏み出せずにいる現状を指摘。そのうえで、葛藤や懸念がある中でも発信し続けることの重要性を強調した。また、業界全体で指標や用語を統一していくことが、消費者の意識と行動のギャップを埋めるうえで欠かせない鍵になると語った。
一方、ドバイなど中東地域で最大の小売業を展開するChalhoub Groupのブルテ氏は、同社が実施した2023年の調査結果(*)を共有した。
レポートの中では、中古品販売市場の普及率は、現在わずか5%にとどまっているものの、2022年時点の市場規模は30〜35億ドルに達しており、2026年には110億ドル規模まで成長する可能性があることが示され、成長余地の大きさがうかがえる結果となっている。
また、地域特有の課題として以下の2点が挙げられた。
- 新作コレクションや新品を好む傾向が強く、中古品に対する根強い抵抗感があること。
- ラグジュアリーアイテムの平均購入金額が日本の約3万円に対し中東地域では約8万円と高額で、「手頃にハイブランドを手にできる」といった中古品の経済的メリットが十分な説得力を持っていないこと。
こうした点からも、中東地域におけるリセール市場の拡大には、依然として乗り越えるべきハードルが残されていることが示された。

※ The Fashion Remodel 出所:The Ellen MacArthur Foundation
※ Making circular business models a core part of business strategy 出所:The Ellen MacArthur Foundation
※ Metrics for making the case for circular business models 出所:The Ellen MacArthur Foundation
※ It takes many 出所:Zalando
※ Circular Fashion Potential in the GCC 出所:Chalhoub Group