ティップス, ストーリー|2025.05.27

大ブーム! 自由でエシカルな編み物の始め方

去年の秋ごろから、編み物が人気だ。インフルエンサーが火付け役となっているようだが、物が溢れて時短を良しとする今の時代に、なぜ手間と時間のかかる編み物がブームになったのだろうか? その背景と、これから始める人に役立つ情報を紹介する。

原稿:横山佐知 撮影:目黒智子

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きっかけは、宮脇咲良の編み物のSNS投稿と、YouTube

多くのメディアで紹介されているように、空前の編み物ブームである。諸説あるが、韓国のガールズグループLE SSERAFIM(ルセラフィム)の宮脇咲良が、自作の編み物アイテムをSNSに投稿したことがきっかけだと言われている。その完成度の高さにインスパイアされた多くの若い女性たちがこぞって編み物を始めて、100均ショップの毛糸コーナーは欠品状態が続いている、といったニュースを観た人も多いだろう。

宮脇咲良のInstgramより

あくまでも上達してからの話だが、自分の欲しいもの、着たいものが作れて、さらにサイズアウトしたり失敗したら、糸をほどいて作り直すことができる。編み物は非常にエシカルな趣味と言えるのだ。

編み物ブームの背景とその魅力、そして何から始めたらいいのか? 何を買えばいいのか? 編み物関連書籍の出版や、ショップ経営などを行なっている「amirisu」に聞いた。

amirisuを主宰する、左がタナカメリさん、右がオチアイトクコさん。2人とも小学生の頃にお母様から編み物を伝授された。メリさんはその後しばらく編み物から離れて30代から再開、トクコさんは編み続け、30代頃からレッスンで教える側に。関西在住だが、東京でも月に7回レッスンを行なっている。写真提供:amirisu

――今の編み物ブームをどう見ていますか?

「びっくりしています。去年の10月くらいまでは通常通りという印象でしたが、11月頃から急にお客さんが増えて、どうしちゃったの?と思いました。でも数年前から予兆はありました」(amirisu主宰・オチアイトクコさん、以下トクコさん)

「韓国ではコロナ禍の頃から編み物がブームになって若い方がやるようになったんです。うちのお店はもともと韓国のお客さんが多くて、私たちも行ってみようということになって、3年くらい前から毎年韓国でイベントをやっているんです。多分、韓国で流行っているのをYouTubeで見た日本の若い方が、編み物を始めるようになったんだと思いますね」(amirisu主宰・タナカメリさん、以下メリさん)

「今はとにかくYouTubeで検索をする時代。編み物を始めようと思った時にYouTubeが教えてくれるというのがブームを支えているんだと思います」(トクコさん)

実は世代によって違う、編み物との関わり方

amirisuが経営する店舗WALNUT Tokyoの店内

「30代は編み物人口が少ないんです。40〜50代は母親やおばあちゃんがやっていたので子供の頃に教えてもらった人が多い。30代は母親もおばあちゃんもやっていなかったので教えてもらっていなくてYouTubeも活用しないので、編み物人口が少ないんですね。その世代で途切れるのですが、20代になるとYouTubeが身近にあるので始めやすい。100均でも編み物アイテムを売っているので安い材料を使って無料で習える時代。そこでハマって、もうちょっとお金を使おうかなと思う人がうちのお店に来ているようです。
うちのお店はいろんなYouTubeのチャンネルでも紹介されているので、皆さんよく勉強していて、何を買うべきか調べてから来ていますね。
自分で学んであたりをつけて来てくれる。ありがたいです」(トクコさん)

国内外の毛糸メーカーのほか、オリジナルの10種類の毛糸もWALNUT Tokyoで扱っている

欲しいもの、着たいものが作れるのが編み物の魅力

――着たいものや欲しいものがあったら自分で作ればいいって感覚ですね。

「私たちが見ていると、おしゃれなお客様が多いですね。アパレルショップで見かけたアイテムのデザインが好きでも着たい色がない場合、自分で似たようなデザインを探して編めば好きな色を選べるし、丈も調節できます。欲しいものは自分で作るというこだわりのあるおしゃれな方が多い印象です」(メリさん)

「ニットに限らず昔はそうだったのが、いつしか洋服は買うものになったんですよね。自分で作るという意識がなくなってしまいましたが、やろうと思ったらやれる土壌はあるので、気に入ったものを自分で作ればいいと思います。
最近は材料費が高くなったので、アパレルで売られているニットも同じ2〜3万円でも質が下がってきている印象です。
うちで売っている毛糸でちゃんと編めればハイブランドと同じようなものが作れると思いますよ。今は羊毛だけでなく、アルパカやモヘアの値段も上がっているので、アパレルでは同じ値段で同じ品質のものは作れないんです」(トクコさん)

どうやって始める? 編み物初心者が知っておくべき基礎知識

amirisuでは初心者向けのアイテムの販売やYouTubeの投稿も多数ある。初心者が知っておくべき編み物の種類、毛糸の選び方、おすすめのアイテムを聞いた。

棒編み

2本の棒で編む編み物。表編みと裏編みという二つの編み方が基本ですが、スムーズに編めるようになるためには、少々練習が必要です。世の中のセーターのほとんどが棒針の形式で編まれているので、いつかはウェアを編みたいという方は棒針がおすすめ。最初は往復編みのカウルのような小物から始めるとよいでしょう。

かぎ編み

かぎ針で編む編み物。棒針よりも自由に形を作ることが可能です。目を落とす心配がない点は初心者におすすめですが、その分、目の大きさをコントロールすることが難しく、目が大きくなったり小さくなったり、サイズが揃わなくなりがち。よって、最初は大きさが違っても気にならない、バッグや巻き物がおすすめです。

初心者におすすめの毛糸は?

ウール100%のものがおすすめです。伸縮性があるためで、伸縮性は編みやすさに繋がります。あとは、太すぎない細すぎない糸を選ぶこと。

季節よっておすすめの毛糸はある?

編みやすさという点を重視するのであれば、いつの季節でもウール一択です。しかし、かぎ針で夏用の小物を編む場合、リネンやジュート、コットンなどの素材を選ぶことが多いと思います。その時は、太すぎない細すぎない糸を選び、ある程度ハリのある糸だと上手く編めると思います。硬い糸は手を痛めがちです。どうぞご注意を。

初心者が編むのにおすすめのアイテムは?

ウェアを編んでも、入らなかったり逆に大きすぎたりすると悲しいので、最初は大きさが気にならないアイテムがおすすめです。バッグやネックウォーマー、ショールなど。初心者は自分の思い描いた大きさに作品を仕上げられないことが多いと思います。手編みとは、自分で1目1目の大きさを揃えていく作業。ここが一番難しいですが、やればやるほど、目は揃っていきます。
どんな大きさになっても楽しく身につけられるものから、始めてみてくださいね。

目線の先は世界へ。グローバルに展開するamirisuの世界

amirisuは、前出のトクコさんとメリさんが2012年に始めたユニット。聞けば、2人はRavelryというアメリカ発の編み物サイトを通して知り合い、半年後には自分たちで編み物雑誌をスタートさせたとのだという。ほっこり系のストーリーかと思いきや。

レッスン中のトクコさん。一緒に店内で毛糸を選んだりおしゃべりしたり。参加者は自分のタイミングで参加して各々作りたいものを作ってとても自由

「日本の編み物本で紹介されている作品のデザインは、サイズ展開が少ないものが多いです。私たちは身体が小さいので本に載っている通りに作っても体に合わなくて、編んでみてもいまいちだったんです。なので私はAmazonで海外の編み物本を購入して作ったりしていました。」(メリさん)

「そのうちにアメリカのRavelryが立ち上がったのですが、そこは世界中の人たちが自分のデザインをPDFで売り買いする場所なんです。海外の編み物はサイズ展開も幅広くて、こんなにすごいんだ!と開眼した頃にタナカに出会いました。それが12〜13年前です。
今では誰でも自分で本を売れる時代ですが当時は難しかったので、誰か出版社の人がこの日本と世界の編み物の乖離に気づいて、新しい媒体を作ってくれないかなと思って、2〜3年待っていました」(トクコさん)

Raverlyのサイトより

「当時は編み物をやっているというと、おばあちゃんの手芸みたいな古いイメージを持たれることが多くて、いやそれじゃない!と反論していましたね。私はファッションが好きで、着たいものを編んで着る、市販されているようなものを、自分で編んで着ていました」(メリさん)

「編み物=やぼったい、ダサい、なんでそんなことしてるの? と見られることに腹が立ったんです。今では誰かに歯向かう気持ちはないのですが(笑)。2〜3年待っても誰も始めてくれないので、じゃあ自分たちでやろうとamirisuを始めました」(トクコさん)

スタート当初はwebマガジンだった雑誌「amirisu」は、2014年から紙媒体に。2024年以降、編み物パターンは紙媒体として出版し、読み物はwebメディア「yomirisu online」上で公開している

意外と武闘派!!(褒めてます) その後、東京に住んでいたメリさんが会社勤めを辞めてトクコさんの住む関西へ移住し、2012年に京都でamirisuのオフィスを立ち上げた。amirisuの出版や毛糸の販売に始まり、編み物のワークショップとその場所となる店舗の経営、オリジナルのヤーン(毛糸)の製造販売など、業務の幅は広がっている。そして目線の先は、常に世界に向いているのだ。

「うちは日本の編み図ではない文章パターンでデザインを売っていて、ワークショップでは英語のパターンも教えています。市販の本とは違うことをやっているので、それを期待して来てくれるお客さんも多いですね」(トクコさん)

レッスンの様子

「海外では、日本のような図ではなく全て文章で書かれたパターンが主流です。文章の方がサイズ展開がしやすく、うちは海外のパターンを採用しています。」(メリさん)

「文章だといくらでもできるんですよね。うちのデザインは少なくとも8サイズ展開です。世界的にはサイズ展開がないのは差別になるんですが、日本人はあまりその意識がなくて、体の小さい人、大きい人のためのオプションがない。しかし、私たちはもうS、M、Lの3サイズで出しても何か言われてしまう時代に生きてるんですよね。

たくさんのサイズを作ると、チェックも大変です。バスト160cmまで作るので。とても大きく感じますが、仕事で海外に行くと実際にそれくらいのサイズの人はいますから、作らないといけません」(トクコさん)

まさにユニバーサルデザインを実践しているamirisu。初心者がここの素晴らしさをフル活用できるようになるには時間がかかりそうだが、ニットの本番シーズンに向けて今からスタートするのは、タイミング的にベストかも知れない。

WALNUT Tokyo

東京都港区南青山3-8-5 DeLCCS南青山 1F-2号室
営業時間:12:00〜17:00
定休日:日・月

amirisu

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ライター/エディター
横山佐知
出版社勤務を経て2022年にフリーランスに転身。趣味は旅とランニングと登山とお笑い鑑賞。

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