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世界で広がる「気候訴訟」とは?
最近海外のニュースでよく耳にする「気候訴訟」という言葉。アメリカ・モンタナ州やお隣の韓国でも、若者たちが裁判を起こし勝訴したことが話題になっています。そしてここ日本でも2024年、16人の若者が「明日を生きるための若者気候訴訟」を起こしました。
北海道から九州まで日本各地に暮らす10~20代が、主な火力発電事業者10社( JERA、東北電力、Jパワー、関西電力、神戸製鋼所、九州電力、中国電力、北陸電力、北海道電力、四国電力)に対し、パリ協定で採択された「世界の平均気温上昇を1.5℃に抑える」という国際目標に合った水準までCO2を削減することを求めています。この10社だけで日本のCO2(エネルギー起源)の3割を排出しており、再生可能エネルギーの普及などの代替手段があるにも関わらず十分な対策が取られておらず、むしろ国際合意に逆行する現状となっているため、その責任は重いということ。
ちなみに海外で起こった気候訴訟を見ていくと
- アメリカ・モンタナ州:化石燃料の使用を促進するような法改正が、「クリーンで健康な環境を保持する」ことを定めた憲法に反すると若者16人が訴え2024年勝訴。
- 韓国:政府のGHG削減目標は不十分で将来世代の基本的人権を保護していないと、乳幼児を含む19人の若者が訴え、憲法裁判所は2024年8月に違憲の判断を下す。
- ドイツ:パリ協定の温度目標におけるドイツの残余カーボンバジェット量(許容される温室効果ガス排出量の上限)に対し2031年以降の排出削減の対策がなく2030年目標も不十分という市民の訴えに、憲法裁判所は「原告らの自由を制約する」と訴えを認めて違憲の判断を下す。
- スイス:シニア女性団体が、政府の気候変動対策が不十分で若者などの基本的権利を侵害していると訴え、2024年欧州人権裁判所が主張を認める。
- オランダ:環境NGOの訴えに対し、2019年最高裁判所は市民の生存権と福祉に深刻な影響をもたらす気候変動の危険なリスクを考慮しGHG削減強化を命じる。
などがあります。
だれもが安定した気候のもと安全に健康的に暮らす権利をもっており、身体的・精神的な健康が脅かされるのは「人権侵害」だ――この認識が広まり、世界では2024年までに約2400件の気候訴訟が起きているそう。そんな流れのなか、日本の若者たちも立ち上がりました。
気候危機によって7倍の被害を受ける若者世代
原告16人のメンバーもそれぞれに酷暑や豪雨などの異常気象を実感しています。授業やクラブ活動へ支障が出ていること、地元でスキーやスノーボードができなくなっていること、家族や知人を含め巨大台風や山火事等の被害を受けたことなど…不安は尽きません。
原告団のひとり二本木葦智さん(記事トップ写真・右)は、グレタ・トゥーンベリに共感しFridays For Future Tokyoで活動してきた大学2年生。「国連総会で各国首脳へ向けて意見するグレタを見て、気候危機は遠い将来のことではなく、今すぐ動かないと自分たち世代が大きな被害を受けるんだということに気づいたんです。以来、デモや政治家との対話などさまざまな活動をしてきましたが、なかなか社会は変わらない。でも、裁判だったら公的な仕組みを使って社会を動かせるんじゃないかと思っています」。
米サイエンス誌に掲載された科学者チームの分析によると、2020年生まれの子どもは1960年生まれの世代に比べ、気候変動の影響を最大7倍受けるそう。けれども当事者世代の危機感は、国や企業の意思決定の場にいっこうに届かない。
「選挙では既存の政党から選ばなきゃいけないし、10代では選挙に立候補することはできない。でも、訴訟という形ならダイレクトに市民の声を届けられる。そして双方の見解が公的な記録として社会に残っていけば」と語ります。
気候危機は命の問題に直結している
この日もうひとり登壇したのは、record1.5代表の山本大貴さん(記事トップ写真・左)。高校生の頃からさまざまな市民活動に関わり、COPにも参加。2022年には「record1.5」を立ち上げ、ドキュメンタリー制作やpodcastなどを通じて気候危機の記憶を発信しています。
「気候危機はもはや人々の命を奪うレベルで進行しています。若者世代は甚大な影響を受ける被害者だけれど、グローバルサウスから見ると世界5位の排出国である日本に暮らす僕らは加害者ともいえます。そんな包括的な視点で気候危機についてみんなで考え、命や健康という普遍的な『人権問題』として問うことができるのがこの訴訟」と意義を語ります。
社会を変える「名もなき市民の声」に光をあてたCOP27のドキュメンタリーを制作し、市民運動/ロビイング/メディアを自在に行き来しながら、気候危機問題に果敢に取り組んでいる山本さん。今注目しているのは「地方の動き」とのことで、夏にはサステナブルタウンを目指す埼玉県ときがわ町の市民活動を追った映像作品を公開予定。
「都市部ではコミュニケーションを取るのが難しくても、地方にはまだ可能性があります。地方の農家や若者コミュニティなど気候危機の影響をもろに受けている人たちが、どのような町づくりを目指していくのか? 立場を超えて合意形成していく場にいられるのが楽しいんです」
気候訴訟の裁判所であろうと、地方の畑であろうと、それぞれがそれぞれの持ち場でやれることをやって、みんながどこかで繋がっていく。それが今山本さんが考えるアクティビズムの形。
では振り返って、自分の持ち場で、自分ができることって何だろう?
若者気候訴訟は、5月22日に原告と弁護団が法廷で意見陳述を行う第三回口頭弁論期日が名古屋地裁にて行われます。裁判はだれでも傍聴することができ、裁判後には報告会(オンライン配信あり)も行われます。みんなの命、健康、権利が守られるのか、訴訟を応援し注目していきたいです。
