※この記事は、Reimagining Physical Retail: Where the Future of Shopping Actually Happensを一部抜粋し、日本語訳したものです。
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ヌーディージーンズの例に見る実店舗の活用法
他にない実店舗の顧客体験を提供しているブランドの1つはスウェーデン発のヌーディージーンズ(Shift C評価:素晴らしい)だ。世界30か所以上に展開するNudie Jeans Repair Shopは、ただジーンズを販売するだけではない。店内は、素朴な棚の上に、コンクリートの壁に沿って、新品のジーンズや、羨ましくなるほど着古したジーンズがきちんと積み重ねられている。ここでは、親しみやすいスタッフが、1人1人にぴったりのジーンズを一緒に探してくれる。購入した人は、生涯ずっと無料でリペアしてもらえる。
ここ5年間はオンラインショッピングが優勢だったが、実店舗の業績はパンデミック前のレベルに戻りつつある。繁華街やショッピングセンターでは依然として顔の見えないグローバルブランドが軒を連ねているが、中小ブランドがもたらす固有の価値、つまりコミュニティ、キュレーション、ストーリーテリングは、地主、投資家、買い物客の注目を集めているのだ。
店舗のデメリットといえば、オンラインショップのような広大なマーケットにリーチできないことだ。しかし、これは必ずしも悪いことではない。ビジネス・オブ・ファッションとマッキンゼーの最新のレポートによると、オンラインショッピングを試みた人のうち、74%が商品数の多さに圧倒され、購入を諦めた経験があると推定されている。
これに対応して、一部の小売業者は、選択肢の多さによるストレスを減らすために、より消費者の好みと関連性の高い商品をリコメンドする方向に切り替えている。たとえば、オンラインショッピングサイトAsos(Shift C評価:まだまだ)は、顧客に提供するブランド数を減らす代わりにより関連度の高いブランドを提供することを発表し、2024年第1四半期に在庫を前年比で30%削減した。
一方で、買い物客は検索して上位にくるブランドだけではなく、まだ知らないブランドを発見できるようなキュレーションや機能を求めているのも事実。Lone Design Club(LDC)は、まだ広く知られていないブランドデザイナーやサステナブルブランドをキュレーションするプラットフォームで、創設者兼CEOのレベッカ・モーター(以下、モーター)は「私たちの生きている世界は、選択肢が多すぎる飽和状態だ」と語る。
新型小売りプラットフォーム「LONE DESIGN CLUB(ローンデザインクラブ)」に学ぶ
LONE DESIGN CLUB(LDC)は、新進気鋭のインディペンデントブランドを集め、ポップアップストアやオンライン販売をしながら発信する小売プラットフォーム。 特に、サステナビリティやエシカルな生産を重視するブランドをキュレーションし、大手小売とは異なる個性的で革新的な販売スタイルを展開している。
2018年以来、約3,500のサステナビリティ志向のブランドにオフラインで小売スペースを提供し、ロンドン、リバプール、カーディフ、リーズなど英国各地で110を超えるポップアップストアを開催してきた。
「キュレーション、パーソナライゼーション、そして自分に合わせてカスタマイズされているかのような体験が大事なのです」モーターは続ける。「私たちにとって、小売業とは、ブランドがいかにしてオーディエンスを増やし、顧客を維持し、その世界に引き込むかということです。重要なのは、ブランドがサステナビリティのストーリーを積極的に伝えることができるということです。」
店舗でこれらのストーリーを伝えるには、知識豊富で情熱的な店舗スタッフが必要だ。「多くの企業にとって、サステナビリティはストーリーテリングの中核です。店舗スタッフは単に売ろうとするのではなく、サステナビリティを刺激的なトピックスとして利用しています」と、モーターはいう。「LDC にとって、実店舗の素晴らしさは、店舗内に知識を共有したい専門家がいて、そのストーリーをより深いレベルで顧客に伝えられていることです。」
実店舗はブランドの成長と循環型ビジネスの拠点になるのか
ヌーディージーンズにとって、世界各地に展開する30以上の店舗は、ブランドの価値観を共有し、循環型サービスを軸にコミュニティを育む場となっている。再販および引き取りプログラムに加え、ヌーディージーンズ はすべてのデニム製品に生涯無料のリペアサービスを提供している。「ヌーディージーンズは、リペアショップがなければ現在の姿にはなれなかったでしょう」と北欧地域の商務担当ゼネラルマネージャー、マシュー・ストーン(以下、ストーン)は述べる。「リペアショップにおけるコミュニティ意識が生まれたのは、お客様との信頼関係を築けてきたからです。当社のジーンズを愛用しているお客様の中には、ジーンズの内側に何世代にもわたり修理を施したりパッチを当てている方もいます。」
ジーンズのリセールコーナーでは、何年か履きこんで味が出たジーンズが並んでいる。「最初は真っ白なキャンバスですが、何年も使用することで、店舗のリユース セクションで展示できるほど美しい製品になります。リユース ジーンズを探しているかどうかに関係なく、顧客は店舗体験を存分に味わうことができます」とストーンは語る。
これまで実店舗の可能性について見てきたが、もちろん、独自の体験を提供するLDCやヌーディージーンズもオンラインショップを運営している。物理的な店舗とデジタルを融合させたオムニチャネルのショッピング体験は、それぞれの良さを活かせる点が魅力だ。ヌーディージーンズにとっては、業務の効率化に加え、オンライン購入に伴う二酸化炭素排出量の削減にもつながるという。「オンラインで商品を購入しても、店舗の方が近い場合は、倉庫ではなく店舗から商品を発送できます。または、店舗で商品を受け取り、試着することもできます。」
LDCでは、店舗で集めたデータを活用することで、ブランドは顧客の購買行動をより深く理解できる。例えば、どんな商品がよく売れるのか、顧客がどのくらいお金を使うのか、さらには店舗でのディスプレイがオンラインショップやSNSでの反応にどんな影響を与えるのかまで、幅広い情報が含まれる。
「実店舗での動きとデジタル空間での反応を組み合わせ、それらのデータを活用して、より効果的な成長戦略を立てることが重要です」とモーターは語っている。
また、ヌーディージーンズでも、修理のために持ち込まれるすべてのジーンズを記録しており、それを元にデザインチームと受注チームは、製品が時間の経過とともにどのように変化するかインサイトを得ている。
先見性のあるブランドと小売店のオーナーはチャンスをつかんでいる
先見性のあるブランドと小売店のオーナーは、データを積極的に活用することで、サステナビリティの実現に向けたチャンスをつかんでいる。データは、リスクを避けがちな地主や不動産パートナー、投資家にとって重要な根拠となるからだ。データの活用により、消費者の関心を裏付けるだけでなく、ブランドのサステナビリティへの取り組みに対する信頼性やリスク、そしてブランド全体の成果を測定することもできる。
「ショッピングセンターは、サステナビリティを重視しているようになっており、その情報を意思決定に活かそうとしています」と、Good On Youの共同創設者であるサンドラ・カッポーニは語る。
2023年、ユニベール・ロダムコ・ウェストフィールド(URW、ウェストフィールドショッピングセンターを運営しているグループ)とGood On Youは、小売業のサステナブル度合いを測るための「サステナブル・リテール・インデックス(SRI)」を開発した。この指標は、サプライチェーン全体での企業のパフォーマンスを高めるだけでなく、店舗での体験がサステナブルである場合の影響を評価している。例えば、修理サービスや中古品の提供、ヌーディージーンズのような引き取りプログラムなどが含まれる。
「私たちは、消費者の意識を高め、さまざまな方法で消費者と関わることに大きな価値があると考えています」とカッポーニは話す。
LDCは、設立以来、さまざまな教育活動にコミュニティを巻き込み、ワークショップやネットワーキングイベント、サステナビリティに関するパネルディスカッションを育て、人々をポップアップストアに引き寄せてきた。 モーターによると「これらの場所は従来の店舗とは違う、会話や学び、交流の場です」。
ファッション業界は、他の多くの業界と同様に、サステナビリティへのプレッシャーがかかりながらも2025年を迎えた。ブランドの中には、設定していた誓約や目標を放棄するところもある。これは保護環境に関する規制の強化を踏まえたリセットである場合もあれば、長期的にはうまくいかない後退の例である場合もある。
結局のところ、思い切って持続可能な小売戦略を取り入れるブランドは、意識の高い消費者とより深くつながることができ、実店舗がその魅力を発揮できる場所になり得るということだ。 実店舗は、サステナブルなブランドが、消費者に魅力をアピールするのに役立つ。さらに、オンラインショッピングでは到底かなわない体験、つまり、専門の店員がぴったりのサイズを見つけ、修理してでも履きたいと思えるようなジーンズを選ぶのを手伝ってくれるという永続的な価値をもたらしている。
ストーンは、小売業の進化におけるヌーディージーンズの役割について楽観的だ。「私たちは自分たちの道を歩み、自分たちがどうありたいか、何が重要か考えながら、自分たちの未来を自分たちで作っています」。そして、同様に重要な点として、ストーンは次のように強調した。「今、小売業に携わるのはとても楽しいです」。