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日本の真摯なものづくりの背景にある、実はサステナブルに通ずる考え方や取り組みがあることを知ってほしい
新潟五泉市で60年以上の歴史を持つニット工場「ウメダニット」から生まれたファクトリーブランド、ウメダ。「10年ニット」というコンセプトを掲げ、商品展開はプルオーバーとカーディガンの2型、色は黒とグレーの2色、ゲージ違いが3種というミニマルな提案のユニセックスブランド。飽きがこない長く着られるデザインはもちろんのこと、リペア保証もあり、文字通り10年ちゃんと着られるニットを目指すブランドです。
良いものは長く着たいだろう、という仮説のもとスタートさせた
木村舞子(以下、木村) UMEDA(ウメダ)はどんな経緯でスタートされたのでしょうか?
以前、ニット工場ではOEM(ブランドからの受注生産)がほぼ100%だったのが、ここ10年くらいで各社の強みを生かしたファクトリーブランドを立ち上げる企業が増えてきました。最初のラッピンノット(という自社ブランド)はうちが培ってきたいろんなことを詰め込んでいるブランド。そこで試行錯誤してできた知識や技術がある。世の中には安価な商品がたくさんある中で、ウメダニットの存在価値はなんだろう? と、ちょうどコロナの頃に考えたんです。
うちのニットは品質が良いと言っていただくのですが、それって広義ですよね。そこで、良いものだったら長く着たいんじゃないかという仮説を立てました。たとえばマルジェラのニットは10年前のものでもみんな持っていたりする。そういう(長く着てもらえる)ものを今の自分たちなら作れるんじゃないかと思って始めました。
最初は目が細かいハイゲージのものだけを作る予定だったんです。でもハイゲージニットっていろんなブランドが作っていて、違いがわからなくてビジネスになりにくいなと思ったんです。
シャツ製品で、襟の形だけ変えられるものなどをヒントに、僕らはゲージで選べるようにしたらどうだろうって考えて、ゲージを3種類にしました。(ウメダニット代表・梅田大樹氏、以下同)
木村 10年という設定に何か理由はありますか?
50年とはさすがに謳えないですよね。でも2~3年、5年だと中途半端。業界の人はものを大事にされていたり、同業者でもあの時のあれってアーカイブのように持っている人はいるけど、10年ちゃんと着続けている人ってどのくらいいるだろう? と思って、わかりやすい区切りとして“10年ニット”と1ワードで表しました。
そもそも工場に関わる人や技術、設備はサステナブルでないといけない
時代的にサステナブルって言葉になっていますけど、そもそも工場はサステナブルじゃないといけないと思っていて。人も技術も設備も持続可能でないといけないんですよね。でもここ2~3年で同業他社さんがいくつも廃業している。なんとかしないといけないタイミングがひしひしとそこまできていると感じますね。
ただファクトリーブランドということではなく、お客さんに寄り添ってウメダは作られました。10年はもつので丁寧に着てください。だからちゃんとケアの相談も受けますよ、とスタートしました。
木村 ウメダができてから3年目になりますが、リペア依頼はどのくらいありますか?
まだ本当の意味のリペアは今のところ4~5件ですかね。ちょっと引っ掛けたけど直りますか?とかいうものが大半です。ニットはそもそもの組織で直すと、どこに穴が空いてたの?ってくらい綺麗に修復できます。穴が大きすぎるとさすがに出来ないんですが、一度見せてもらって応相談ですね。2~3目だったらなんとかなります。
木村 ちなみに洗濯ケアのサービスなどはやっていますか?
今後要望が出てきたら対応していきたいですね。クリーニング屋さんと提携するとか。土日にオープンしている工場併設のお店があって、そこにはケア用品も置いています。北欧の商品や東久留米の創業約40年のクリーニング屋さんがオリジナルで作った洗剤とか。お客様にはケアが面倒に感じたり、忙しい人も多いのでふたことめには洗えるか、イージーケアかどうかって聞かれたりします。もちろんそれも大事ですが、じゃあ全部合成繊維でいいのかって言うとそれも違うと思います。
木村 それで言うとウールってそもそもそんなに洗わなくていいですよね。ポリエステルやナイロンだと確かに洗濯機で洗えてケアは楽かもしれませんが、個人的には合成繊維のニットは苦手で。
確かにそうですよね。ウールは皮脂を好むヒメカツオブシムシなどに虫食いに遭ってしまうことがあるので、シーズン切り替えの時には必ず洗って保管することがマストなんですが、着る度にとか毎週のように洗ってしまうと逆に摩擦で劣化してしまいます。ちゃんと着るってそういうケアも必要ですよね。
木村 私もなるべく一度着たらブラシをかけて、洗うのはシーズン終わりだけにしています。
ウメダをスタートさせたことで、他社からの信頼度も上がった
木村 10年ニットという言葉を聞く前は、ニットは消耗品だと思っていました。買った時の綺麗な状態を保ちたいけど、どうしても毛羽だってきて風合いが変わってしまう印象があります。中には経年変化が味になるものもあると思いますけど。
ニットは、度目(どもく)という目を詰めるか、ザクザクにするか、ブランドや会社によって違いがあります。うちはそもそも目を詰めるのを良いとしている会社なんです。お客様に聞くと、目が細かく温かいから好きだと言ってくれます。あと、へたらないとか。
ウメダを始めた頃は、売れた商品はゲージもサイズもバラバラだったんだけど、3年目になると(目の細かい)16ゲージが良いとされて、他社のものより良いと言ってもらえています。一般的にハイゲージのものは薄手で、女性は好きだけど男性は身体のラインを拾ってしまうことに抵抗がある人もいるようなのですが、ウメダのものはハイゲージだけど適度に厚みがあるのが良いと言われます。
あとは洗いのフィニッシュで、あえてちょっとだけ毛が立つようにしています。洗いも12回くらいトライして。現場の人たちは5回目までは社長が言っている違いが分からないと言っていたのですが、6回目くらいでやっとわかってもらえました(笑)。
木村 確かに最初から洗いがかかっていることで、着ていくうちに大きく風合いが変わってしまうということも少なくなりそう。ただ商品としてカッコいいだけじゃなく、こういう細かい仕様も着る人のリアルに寄り添ったデザインというのがいいですね。
これをきっかけに社内の人間の、ものに対するリテラシーがとても上がったんです。ウメダは2年費やして作ったのですが、ここ1年半で、いいブランドのOEMが急激に増えました。僕らのニットのリテラシーが上がったことで、他社さんからの信頼が厚くなった印象です。
最近はCFCLさんなどのブランドの製造もやっています。昔は『うちのを作っていることは伏せて』と言われることもありましたが、今では逆に工場名を出したいと言ってくれるブランドも増えてきました。
木村 デザインにはどんなこだわりがありますか?
ブランド全体のデザインコンセプトは、“デザインがないのがデザイン”なんですけど、だからこそバランスが大事。創業60年のウメダニットの歴史を今後も繋いでいくとなったとき、ただ歴史っぽくなってはいけないし、近未来っぽいのも違うなと思ったんです。それで、和洋折衷というわけじゃないのですが、モダン7:和3というのを、フォントやパッケージ、物作りでも意識していこうということになりました。
パッケージはちぢみで有名な新潟の小千谷市の着物をモチーフにしたものを使っています。商品が段ボールで届くのもどうかなと思って作りました。防虫効果とかはないのですが、これに入れて保管したり、ギフトのパッケージにすることも出来ます。
また、ウメダのニットの2色のうち、黒は漆黒に二度染めしています。グレーは黄味がかったグレーでチノやデニムなどの皆さんの10年アイテムと合うようにしている。グレーは青みがあると、急におじさんっぽくなるんですよね。
ボタンもそのバランスの中で、ヴィンテージ感のある少し可愛らしいものを選びました。素材はシェルや水牛などの天然素材も検討しましたが、10年後を見越した時に無くなってしまうものだと困るので、あえて再生プラスチックを採用しています。
木村 10年後を見据えたデザイン。説得力がありますね。
なんでもtoo muchになってなくなってしまうのは良くないですよね。毛皮しかりウールしかり、以前は自然界のものを適量使わせていただくことで成り立っていたのが、商業的になって過剰に取りすぎることで使用禁止や反対となるのは個人的にはおかしいと思っています。でも新しく代わるものやリサイクルのために工場をバンバン作るのもどうかなと思うので、僕らは天然素材のものにこだわって、変なことをしていない素材かを調べて使っている。ウールだとノンミュールジングかどうかとか。最近だと南米が頑張っていますよね。うちも南米のウールを使っています。
木村 ウールに関しては認証もあると思うのですが、日本だとまだまだ取得しているところは少ないですよね。そこに関してはやはりハードルが高いのでしょうか?
僕らも糸を作るところからはできていないので直接原料を仕入れることがないのですが、話を聞く限りやはり海外は素材に対しても意識が高いです。特にメゾンブランドは素材がちゃんとしていないと使わないというブランドが多い。日本だとまだそういったことで素材を選ぶブランドは少ないですね。認証をとるにはお金もかなりかかりますし。ただ、中には意識が高いブランドもあるので、そういったところには糸屋さんから聞いた情報をもとにきちんとした生産背景のある素材を提案するようにしています。もちろんそうじゃないブランドにも、今時代的にこういった流れなのでと啓発するようにしています。
木村 私も『ファッション・リイマジン』という映画を見て、素材のトレーサビリティをとることがいかに大変かということがわかりました。そもそも小中規模のブランドでは物理的に難しい部分もある。だから今は必ずしも認証に拘らなくともきちんとサプライヤーとコミュニケーションをとって可能な限りの透明性をとることも大事ですよね。
木村 工場では何か取り組みをしていますか?
僕らの町、新潟の五泉市はニット生産日本一なのですが、僕が小学校の時は200くらいあった関連会社が、今は20くらいしかないんです。8年くらい前から町でニットのフェスをやっているんですが、去年から作業工程で出てしまう端切れなどを使ったワークショップを始めたんです。アーティストさんがニットの端切をレジンで閉じ込めたオブジェを作ってくれたり。
あとは残糸を使って他のアイテムを作ることも始めています。ウメダでも残糸を使って奈良の靴下屋さんにしっかりとしたソックスを作ってもらっています。
以前は五泉ニットって質はいいけれど百貨店に入っているミセスブランドというイメージが強かったのですが、今はそのフェスに来てくれるお客さんの層も若くなってきて、さらにその中で転職して仲間になってくれた人もいます。
サステナブルで一番大事なのは、人だと思う
サステナブルって人が大事。原料にフォーカスされることが多いですけど、設備とかもこれから工場を作る人はほぼほぼいないと思うので、今あるものをどう魅力的に使っていくか、維持継続するには価値を伝えていくことが大事だと思います。ただの下請けではなく、直接売っていって作り手に還元していかないといけないと思っています。休みも少ないですし。ウメダニットは年間休日数を100日から105日にしたのですが、来年は107日にします。
ただ、休みが増えるのはいいけど、生産効率を上げないと会社が潰れてしまいます。生産工場ってずっと生産効率を考えないといけなくて、休みを増やすからには去年と一緒でいいではよろしくない。決めたらそこに向かって進んでいかないといけない。
木村 例えばデニムなら汚水の問題など環境に配慮しなければいけないことがあると思うのですが、ニット工場の場合は何かありますか?
うちの会社だけで言うと、ニットを編んだ後の洗いは他社にお願いしています。昔は有害物質を使っていたようですが、今はその薬剤が禁止になったりしていてだいぶ良くなっているらしいです。
あとはニットの製造過程で細かい埃が出るので針を洗う作業がこれまで大変だったのですが、イタリア製の編み機洗いマシーンというのがあって、それを使うと全自動で洗いから乾燥までできます。洗う時の溶剤の汚水はそのまま流してはいけないので、水を浄化する設備を導入しました。
木村 10年着られるニットなのに価格が30,000円台~というのがすごいですよね。クオリティ的にはもっと高くでもいいのでは?
父には18,000円台にしないと社内の他のブランドと比較されるぞと言われたんですけど、それならそもそもやらない方がいいと思って始めました。
逆に高価格帯のお店だとコラボレーションをやりたいけど安すぎると言われることもあって。そういった場合は素材のグレードを上げることもありかなと思っていますが、難しいですよね。
ウメダが伝えたいことは作りたい真髄やものを大切にする心など。なのでスタイリストさんや、いいものをたくさん見てきた人が良いって言ってくれるのは嬉しいです。10年後に何かが蓄積されてたらいいなと思っています。
取材を終えて
シンプルでクオリティがいいというだけでなく、「10年ニット」を裏付けるデザインやものづくりの背景に感銘を受けました。ファッションにおけるサステナビリティはものを作る側の素材や生産方法に「求めること」が多くなりがちです。でもブランドが真剣に長く着ることを考えて作ってくれるなら、消費者もそこにきちんと応えることが必要ですよね。こういった服の背景を知るとますますものを大事にしたくなります。作る側も着る側もみんなで取り組まなければいけないことだと改めて感じました。