「ファッション・メーカーに命令されて服を着る時代は、もう終わっています」
カテリーヌ・ミリネア、キャロル・トロイ、女性ジャーナリスト2人が挑発的な書き出しで、自分らしいスタイルを作り出すことを鼓舞したビジュアルブック『チープ・シック』を書いたのは1977年のこと。流行に翻弄されてやみくもに服を買っていては、コーディネートのうまくいかない服が増えるばかり。自分の生き方と服をもっと近づけるべきという指摘は、今も色あせることなくファッションの本質を突いている。
『チープ・シック』の清々しいファッション哲学を思い起こさせるのが、2020年創刊のファッション誌「Display Copy」だ。編集長はGAP、ジル・サンダー、DKNYなど数々のグローバルブランドでクリエイティブ・ディレクターを務めたブリン・ヘミンウェイ。彼女はファストファッションの内幕を描いたドキュメンタリー映画「リバー・ブルー」(2017年)を見て、環境汚染や強制労働が横行している実態に衝撃を受けたという。
「自分が手がけたブランドのキャンペーンがスクリーンに映されるたび、私の心は張り裂けんばかりでした」
葛藤の末、ファストファッションとの訣別を決めた彼女は新作アイテムを一つも扱わないコンセプトの「Display Copy」をNYで創刊。誌面で紹介するファッションアイテムはすべてヴィンテージやアップサイクルなどのリユース商品だ。
「ファッションの持続可能性に向けた取り組みは、現在業界の急速な成長に追いついていません。ヴィンテージ、アップサイクル、リサイクル品などを選んで着ることは、環境負荷の大きいグローバル・サプライチェーンから離脱する方法。ファストファッション現象をボイコットする意思表示になります」とヘミンウェイ。
Display Copyのサイトやインスタには、新品という固定観念にとらわれず、最先端のファッションや世界のトップレベルのデザインを楽しむ方法が満載だ。ヴィンテージショップオーナーが語るスタイリングのヒント、個性豊かなアップサイクルブランドデザイナーたちの物語、デニムジャケットや白Tシャツなど定番アイテムの時代別の特徴、トレンドカラーを中古衣料品でまとめたリールなど、コンテンツは刺激に満ちていて、ファッション好きなら誰でも好奇心をくすぐられるだろう。
今年6月には新しいマーケットプレイス「Display Copy コレクティブ」をローンチ。ネット上に彼女が厳選した全米11人のヴィンテージキュレーターとアップサイクルデザイナーの商品を集めた。「お気に入りの店の服が一度に買えるオンラインショップを作りたかった」とへミンウェイ。確かに、星の数ほどある中古衣料品の中から良いものを選ぶ目、知識、センスを身につけることは、循環型ファッションの支え手になるためには欠かせないスキルだ。古服は着る人の好みや体型に合わせてサイズ調整やリメークが必要になる場合も多いので、初心者にはキュレーターの存在も心強い。
「従来のファッションシステムから外れたものを見つけ、自分たちのものにするという創造的な表現を楽しんでほしい。ヴィンテージが新しいラグジュアリーになり、古着が新しいストリートウェアになることが私の望みです。地球のためにそうならなければなりません」、ヘミンウェイはそう語る。
参考:https://www.beljacobs.com/old-content/2020/11/25/display-copy-by-bryan-hemingway-rr953