• トップ
  • Learning
  • 「自然への敬意をもつファッションが、これからの格好よさ」。スタイリスト二村毅と木村舞子のサステナビリティトーク<前編>

ストーリー|2024.11.08

「自然への敬意をもつファッションが、これからの格好よさ」。スタイリスト二村毅と木村舞子のサステナビリティトーク<前編>

長らくファッションの最前線で活躍している1970年生まれのベテランスタイリスト二村毅氏と、当サイトで連載をスタートさせた中堅スタイリストの木村舞子氏は、環境問題に高い意識を持った同志とも言える関係。服を通して人々にメッセージを伝えるスタイリストとして、どんな未来を見せていくのか。ふたりの思いとアクションを聞いた。

原稿:YUKA SONE SATO 写真:目黒智子

Share :
  • URLをコピーしました

二村 毅
愛知県出身。90年代にメンズ雑誌でスタイリストとしてのキャリアをスタート。豊富な知識と経験に裏付けされたそのセンスに対する各業界からの信頼は厚く、アンダーカバーなどのコレクションのスタイリングや、広告・カタログなど活躍のジャンルは幅広い。

木村舞子
北海道出身。バンタンデザイン研究所を卒業後、スタイリスト百々千晴氏に師事。ファッションモード誌、カタログ等で活躍中。Shift Cにて「スタイリスト・木村舞子が、ジャパンブランドとサステナブルアクションを考える」を連載中。


今日は、ファッション業界で活躍する環境問題に意識の高いおふたりにお越しいただき、ファッションとサステナブルというテーマでお話をうかがいたいと思っています。
Shift Cは、オーストラリアのGood On Youという評価機関と提携して、世界のブランドのエシカル度を5段階評価しています。評価という視点でおふたりがいま気になっていることはありますか?

二村毅(以下、二村) 福田稔さんの『2040年アパレルの未来』(東洋経済新報社)に書いてありましたが、いまEUではファッション業界の販売規制がものすごく厳しくなってきていますよね。今後の目標を掲げて、アパレル業界が経済を回しながらどうやってサステナブルな形に進めていくのかが世界的に検討されているところだと思います。
大量生産をしているブランドはその時点で無駄は多いかもしれないですが、売上成長をしながらCO2排出量を削減したというデータを発表している企業もあります。日本はかなり遅れをとっていて排出量の算出もできていないアパレル企業がほとんどなんだとか。

木村舞子(以下、木村)
 私も二村さんに教えていただいて福田さんの本を読みました。ヨーロッパでは多くのブランドが毎年サステナブルリポートを出していて、ウェブサイトなどでCO2の削減や責任ある素材の調達など、さまざまな項目で目標と達成率など具体的な数字を発表していますよね。Shift Cのサイトでもそういった公開情報を元に「人間」「地球」「動物」に分類された評価項目でブランドのレーティングを見ることができます。確かに日本のブランドはHPなどにサステナビリティに関する記載があるところが少ないですよね。

Shift Cがブランドの評価で提携するGood On Youのアナリストチームは、日本のアパレルがこのまま変わらなければ数年後にグローバル市場でビジネスするのは難しくなると、警鐘を鳴らしています。エネルギー効率、再利用性などエコデザイン規制(ESPR)に基づく持続可能な製品デザインが要求され、消費者へ情報開示を行うデジタルパスポート(DPP)が当たり前になる時代がすぐそこまで来ています。

木村 特にEUは持続可能性を見据えたアクションを起こすことが義務になってきていますよね。日本ではまだまだ「サステナブル素材を使用した〜」や「アップサイクルした〜」というような製品や取り組みの一部で取り入れている程度というケースが多い印象がありますが、もっと根本的な見直しが必要じゃないかなと思ってしまいます。

二村 ブランドがサステナブルな取り組みをプロモーションの一つとしてやっているとしたら時代遅れ。ヨーロッパではやっていないのにサステナブルな取り組みをしているように見せかける“グリーンウォッシュ“に対して規制がありますよね。日本でもどこもかしこも環境問題と言っているけど、宣伝目的で取り組むのではなく本気で循環性のあるアパレルを考えていかなければいけない。

木村
 私がファッションでいま1番気になっているのは、とにかく量が膨大すぎることです。 1個1個の素材を細かく突き詰めることも大事ですが、そもそも作っている量があまりにも多すぎる。どうやったらダウンサイズしていけるのかをいつも考えています。とはいえスタイリストの仕事はブランドのビジュアルを作ったり、ものが売れるように広めたりと間接的に服を「売る」ことなのでいつも葛藤があるのですが。


二村
 今の時代、ものを実物よりも何倍も格好良く撮っているケースが多いですよね。カメラのテクノロジーの進化で物がよく映りすぎてしまうというのもあるけど。
アメリカの環境保護活動家のポール・ホーケンが著書『祝福を受けた不安~サステナビリティ革命の可能性』(バジリコ)で、企業の成長を優先したことで環境が破壊されている。物を買っていないと恐怖心を覚える社会に進化していると書いていたんだよね。これを脱するのは、ものの純粋な部分をビジュアル化することが必要だと書いてある。その言葉に僕は影響を受けました。そうすれば写真を見ていいなと思ったものが、実際にお店で見たら想像と違っていたということも少なくなるんじゃないかな。それぞれのブランドで違うけど、1番純粋な部分を拾うようにしています。その方が、その商品と本当に必要としているカスタマーを接着させることができる。

木村
 以前一緒にお仕事させていただいた時も仰ってましたよね。その話を聞いて私も「なるほど。」と腑に落ちて。それ以来、私もビジュアル作りに携わるときに、目指すべきところがわかってきた気がします。

「環境に適して持続可能性のある洋服のあり方がサブカルチャー」。次のファッションが目指すべきところ。

二村 雑誌も最初は面白いものを作って売ることで成り立っていたんだけど、80年代から広告がどんどん入るようになった。90年代からデジタルが始まって進化して、主軸が紙からデジタル、web広告収入の方が重要になっていったんだよね。どうしたら広告が取れるか、閲覧数を見るようになる。閲覧数を増やせるコンテンツ、増やせるだろうタレントは誰かって考えるようになった。
僕がスタイリストを始めた90年代は、世の中に知られていない格好いいものや面白いものを紹介していた。“無いもの”があったんだよね。マイノリティをマジョリティに変えるという仕事だったのが、最近は求められるところが変わってきて、逆に共感を得られるものや売れるもの、数字を集めることが目的になってきているように思えます。

木村 確かに見たことないものというよりは人気のもの、売れているものをフィーチャーすることが普通になってますよね。

二村 僕は、環境に適して持続可能性のある洋服のあり方が次のサブカルチャーだと思っています。それが1番とっぽい(格好いい)から、環境問題を少しでも勉強したいなと思っているんです。自分の生活のベースをファッション中心だけにしないようにしています。ファッションだけでは完結できない。次の生活ってこんな美しいんだってまず思わせないといけない。
僕が1番最初にこの気持ちになったのはパタゴニアの 『社員をサーフィンに行かせよう』(ダイヤモンド社)という本がきっかけでした。

木村 パタゴニアの考え方は素晴らしいですよね。地球を救うためにビジネスするっていう。

二村 価値観が変わりました。自分たちが自然が好きでサーフインをやりたいから、その場所となる海を綺麗にしようとか。自分たちも真似できるような余白のある本。世の中を広い視野で見ている。

木村 パタゴニアは環境に関する映像作品も作ってるんですよね。

二村 『ダムがなくなる日まで』っていうショートフィルムがあるんですが、すごいですよ。地域の生態系を破壊する原因だったダムを壊して、また川を解放するドキュメントなんです。
僕は入門編としてパタゴニアのコンテンツを見てほしいですね。難しい数字ではなく、生活も楽しめてという先の未来が描ける。
経済人類学者、ジェイソン・ヒッケルの著書『資本主義の次に来る社会』(東洋経済新報社)にはアニミズムっていう人間中心ではなく、人も虫や動物、植物も同じ関係の中で生きているという考えが書いてあって。それを読んでから人間中心の「私が私が」ではない、モデルが中心なんじゃなく生活の中にいるっていうビジュアルを心がけたりもします。もちろん僕たちの仕事はクライアントがあることなのでブランドのイメージにフィットすれば、ですけどね。

ファッションの制作現場で思うこととアクション

木村 私はサステナブランドとして発足したブランドのルックをスタイリングした時に、撮影の裏側が全く環境負荷を考えていない現場だったことがありました。飲み物はペットボトルで、個包装のお菓子をそのまま買ってきているのを見てなんだか疑問だらけになってしまって。ペットボトルを紙パックに変えたところで温室効果ガスの排出量が大きく変わるわけではないかもしれませんが、普段から気を使うことや便利さから原点回帰するというアクションそのものが大事なはず。どんなに洋服の素材を突き詰めてもそこに考えを巡らさないのって、どうなんだろうと。


二村 そこに神経を使うことで次の服作りが然変わってくるからね。僕がディレクションする撮影現場ではペットボトルを禁止にしてスタッフ全員に水筒を持参してもらっています。コーヒーカップは紙コップの代わりに全てB Corp認証を取得しているブランド、クリーンカンティーンのカップにテープで名前を記入して1日中使用してもらいました。製作サイドは洗浄が大変だったかもしれないですが、以前に比べてゴミが格段に減りました。

木村 私も自分自身はマイボトルを毎回持って行っていますが、スタッフ全員にそれをやってもらうというのがハードルが高く感じています。二村さんのように声を上げてくれる方が増えると現場も変わっていきそうですね。


二人とも取材当日はB Corp認証取得のクリーンカンティーンのマイボトルを持参

二村 僕は、循環性に対して1番重要なのは健康的かどうかだと思っています。都市や地方での生活が自然といかに触れ合う環境のもとで成り立っているか。自然と触れ合う時のナチュラリズムをある程度ファッションのベースにも置いていかないと難しいと思っている。以前読んだ雑誌『WIRED』のRETREATっていう特集があったんですが、テクノロジーの進化は止まらない。その中で自分なりの退却(RETREAT)、拒否できる人が未来派だって書いてありました。
サステナブルなものがいま時代の最先端であるにも関わらず、デザイン性が1番最先端だ、モードだと言ってビジュアルを作っているだけだと、多分僕は変わらないと思うんですよね。

木村 確かにデザインやトレンドを中心としたファッションだと、持続可能なライフスタイルというものに繋がってこないですよね。

二村 パリのファッション(モード)以外の物差しも大事にしていかないといけない。もう少し自然に根付いた形で生活感が築けるといいなと思いますね。

後編に続く>>

後編では、おふたりのおすすめのブランドや本などをご紹介します。

Share :
  • URLをコピーしました

Learning他の記事を読む

絞り込み検索