人気モデルとして活躍していたりりあんさんが、徐々に仕事を選ぶようになっていたのをインスタで拝見していました。まず、気候アクティビストにシフトした決定的な出来事はどんなことだったのでしょう。
小さな頃から蓄積した結果ではあるんです。 色んなコンディションが揃ったことで自分の思いのまま進んで行くエンジンがかかったというか。セヴァン・カリス・スズキさんの スピーチを8歳頃に見たことをきっかけに「自分も環境問題に関わる人になりたい」とずっと思っていて。当時は仲間が見つからなかったけれど私が26歳の頃(2015年)は、パリ協定を求めて世界中の人が声を上げるタイミングだったんですね。ずっと自分が本当にやりたかったことを、これだけ世界中の多くの人たちが同じ思いで動いてるんだって知った時に、自分もやろうと思ったんです。日本ではまだ声を上げる人が少なかったので、海外のムーブメントに励まされながら日本でできることを始めていきました。
Spiral Clubインスタグラム(@spiral_club)より
最初のアクションとして「Spiral Club」を立ち上げました。当時、どのようなビジョンや目的を掲げていましたか?
自分の熱量よりもゆるいスタンスではあったんですが、2018年当時はそもそも環境の話をする文化があまりなかったので、話ができる場所の提供と会話のきっかけになる記事を書いていこうというのが始まりでした。環境についての問いを投げて、それについてみんなで話したり、ワークショップを開催したり。専門知識がある人たちを呼んだときもやはり食を通してとか、生活に根付いた環境対策の話をする会を開いていましたね。
Peaceful Climate Strikeインスタグラム(@pcs_tokyo)より
その後「Friday for Future Tokyo(以下、FFF)」の立ち上げのサポートをしたり、SNSやハッシュタグを活用した様々な市民活動を行い、「Peaceful Climate Strike(以下、PCS)」ではハンガーストライキを行っていました。
FFFはSpiral Clubの立ち上げの頃から発起人の子たちと繋がって、裏でずっとサポートをしてきました。PCSは、どうやって行動していこうと悩んでいた時に国際環境NGO 350.orgからリリースされた「CLIMATE RESISTANCE HANDBOOK」という気候アクティビストのためのハンドブックを読んでいたのがきっかけで、少しノリで始めたような感じもありました。いろんな手法が紹介されている中で、ハンガーストライキを一部の人がやることで他の人達の盛り上げにもなるというようなことが書かれていて、そうしたらちょうどeri(「DEPT」オーナー)から電話がきて、「こんなことがあるらしいよ」「じゃあやろうか」となったんです。
多くの人に影響力を広げたいという思いで、多少ラディカルではありますがハンガーストライキやイベントを同時に実行されていましたね。当時、画面越しでも2人の勢いや情熱がすごく伝わってきたのを覚えています。ご自身も実践することで若いアクティビストを取りまとめてこられたんですね。
取りまとめてはいないんですよ。私は、応援団だと思っています。ただ応援するだけじゃなくて、自分もやっていくという感じかな。どちらかというと個人が一歩踏み出す気持ちをサポートするというか。
メンターのような存在でしょうか。そのポジションを選んだのは何故ですか?
長い間、 本当はもっと早く行動したかったけどできなかった自分がいるんです。誰かの応援さえあったら、もうちょっと若い時から動けていたかもしれないっていう気持ちがあって。私の“熱”って、常に関心があって動けない人とか、 動こうとしていたり動き始めた人たちを応援することなんじゃないかなって思っているんです。気候アクティビストと名乗っているのも、そうした方が動きたいと思っている人を励ませるんじゃないかと思ってのことです。自分に足りていない部分はあるなと感じることもありますけど。
確かにアクティビストという響きに対してストイックな固定概念はあるかもしれません。でも前面に出ている人ではなかったとしても、バックオフィスの人たちも同じ理念や情熱で動いている、そういった見えない姿に対しても名前を与えることで存在を示していくことは大事なことですね。
子供の頃から、学生運動世代の人たちをある程度見てきたんですよ、母がその界隈の人たちと繋がりがあったから。でも私は、彼らが目指していることに共感はするけど、やり方を見ていて一緒にやりたいとは思えなかったんです。そのストイックさと怒りだけがステレオタイプ化するのは良くないし、偏見もあったと思うけれど“こうあるべき”という考えに基づいて行動している印象が大きくて。それより、もっと自由さやゆるさや優しさ、悲しみといったいろんな感情や希望を表現していいんじゃないかなと思っています。少し時間はかかりましたが、世界で多様な表現をしている人たちに出会えたことで、私も日本でもやってみようと思うようになったんです。
本人のインスタグラム(@lillianono)より
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海外で感じた、生活を整えることと市民活動の関係性
ロンドンで行われたCOP(国連気候変動枠組条約締約国会議)の体験や、デンマークの留学を経て、海外での市民活動を日本と比較した時にどのような気付きがありましたか?
白人文化の印象は強かったです。個人の意見を持ち、政治に反映させるのが自然な文化だなと感じました。ヨーロッパでは早い段階から民主主義が存在していたことも影響しているのかもしれないですね。それぞれの良さがあると思いますが、日本は自分の意見を言わないとか、義務は教えるけど権利は教えない教育がベースにある。だからよく動くし、周りのことを考えて物事が回るようにすることが得意だけど、自分にとって大事にしていることをなかなか言えないという傾向がどうしてもある。日本で熱量がある人が何かを始めても、その人が辞めたらその活動自体が止まってしまうことがありますよね。ヨーロッパの市民運動は、誰かが消えてもその代わりの人が持続するような体制を作っているんですよ。日本でもそれができたらいいんじゃないかなって思います。
日本の市民運動はNPO・NGOが主体となっていることが多く、企業からの寄付はあったとしても、資本と離れたところで動いている印象があります。海外では、資本の流れに沿っていたり、活動家がきちんと食べていける骨組みがあったりするのでしょうか。
そもそもヨーロッパでは、労働時間が短くても生活していけるんですよね。自由時間が日本に比べて多いんです。日本では仕事以外の時間があまりにも少ないというのも、市民運動を継続するのが難しい大きな理由だと思います。世界で1番睡眠時間が少ないのは日本の女性だという統計(※)も出ていますよね。
※ 男女平等参画局 令和5年コラム1「生活時間の国際比較」図5『睡眠時間の国際比較』参照https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r05/zentai/html/zuhyo/zuhyoc01-05.html
気候変動で一番の影響を受けるため変化を必要としているのは、若い女性やマイノリティ、グローバルサウスといった弱い立場の人たちです。同時に現代はフリータイムにボランティアを行うことで生活に豊かさをもたらすという考えの方も増えているのは希望だと感じます。
そうですよね。私も最近は少しずつまた生活にも目を向けています。気候については一生かけてやっていくことではありますが、気候変動や地球に対して緊急にやらなきゃいけないことだけではなく健康的にアクションしていくために、自分の“体”や“家‘も継続的にケアしなきゃいけないと改めて気づいて、人生の中で大切なこの2つにマインドがシフトしてきているんです。
自分の心に忠実な選択をしていきたい
りりあんさんは、モデルという立場によって影響力を持つことやそこからメッセージを発するということができるのに、その立場を利用するのではなくお仕事を選ぶということで意思表明をしてこられました。そこにはどんな狙いがあったんですか?
性格ですかね。私は情熱を元に行動しているので、自分の選択が時には合理的じゃないなと思います。合理性よりも、自分の心に忠実な選択をしていく方が結果的に本当に自分が望むところにたどり着けるんじゃないかと思っているので、自分の気持ちに嘘をつかない生き方を優先しています。それでも、最近は以前より基準を柔軟にしているんですよ。
選択の基準を教えていただけますか?
大量消費系企業だったら環境配慮の素材を使っているとか、人権を考え始めているような企業と仕事するようにしています。ただし、そもそも大量消費をしないといけないものを選ばざるを得ない社会構造が問題だと思っているので、環境配慮に手が行き届かない小さいブランドは応援する、というスタンスにしています。
モデルを始めた頃のファッションに対する高揚感や情熱は、現在と違っていたんでしょうか?
実は私、ファッション業界に入るつもりは全然なかったんですよ。姉が現在の事務所に入っていて、14歳になった時から私もお仕事をすることになりました。元々ダンサーになりたかったので、少しお小遣い稼ぎができそうだなというのと、事務所のスタッフがいい人たちだと姉から聞いていたので、バイト感覚で始めたんです。以前から表現するのは好きで、服によって違う人物像が自分の中から出てくるっていうのが、モデルの仕事の面白い点だと思っています。
母はもったいないのが嫌いだし、安価で実用的なものでいいというタイプで、私もその価値観にすごく影響を受けているんです。だから昔からファッションに対する違和感は大きくて。仕事を始めた頃は「モデルだから、おしゃれにならなきゃいけないな」みたいなコンプレックスばっかりでした。自分はスニーカー、ジーンズ、リュック、トレーナー、キャップでいいのに、それで原宿歩くとすごいダサいって見られるから少し意識して古着屋さんに行くようになったりしましたね。
本人のインスタグラム(@lillianono)より
大量生産ファッションはなるべく避けて、自分のニーズをベストマッチ
ファッション産業の環境負荷は粛々と様々な変化をもたらしています。業界の変化をどう感じていますか?
SDGsをやらないといけない風潮があると思いますし、ファッション業界の人たちもプレッシャーは感じているんだろうなとは思います。CO2排出量を測るサービスなども一般的になりつつありますけれど、ファッションブランドがシフトしていく時に必要な選択肢がどれだけ用意されているのかというと、まだ道が整いきってない印象があります。
ご自身は、お洋服をどのような基準で選んでいますか?
私はまず機能性が最優先でしょうか。その中で長く使えるかどうかが大切ですね。選ぶときはまず、新しくないものでそれを手に入れる方法はあるのか、自分のサイズと合うかを考えて結果的に古着を選ぶことが多いです。自分が求めているものが古着で見つからなかったら、環境、人、動物に配慮した選択を探し始めます。型にはまりすぎずいろんな自分のニーズや好きかどうかを重要視して、その時にある選択肢からベストのマッチを選んでいますが、大量生産が背景にあるものを選ぶことは最終手段にはしています。
おすすめのブランドや最近買ったものを教えて下さい。
ARCHIは、コットンは極力オーガニックを使ったり天然素材以外のボタンは使わないなど、心配りのある服作りをしています。昨年お仕事もさせていただいたんですが、素材選びや作り手を誰にするかといったことを丁寧に選んでいると聞きました。そういう姿勢が素敵だなと思っています。
VEJAのインスタグラム(@VEJA)より
B Corpも取得しているVEJAは、ゴムとオーガニックコットンの生産業者と直接取引をしていたり、温室効果ガスの排出量を計測して発表したりと環境負荷の低い取り組みをしていることで有名です。2年前に買ったスニーカーを365日×2ぐらい履いていたんですが、半年くらい前からかかとに穴が空いてきてしまって、やっと買い替えたところです。原宿にあるNatural Shoe Storeで試着して決めました。
自分の価値観で選択の基準を持つことは大切です。Shift Cでは、公開されている情報をもとに世界統一の900項目から専門家たちが審査してブランドの評価を行っているのはご存知でしたか?
情報公開されていることはものすごく大切なことだと思うし、母体であるgood on youは個人的に4、5年前から活用していて、日本にも早くできたらいいのにと思っていました。ただ、大手企業と中小企業で評価方法が違うと聞きましたが、ある程度規模感のあるブランドとマイクロブランドが同じ基準の中で評価されるっていうところには、ちょっと私は疑問を感じているところがありますね。やはり中規模以上のブランドはリソースが豊かな分、できることが多いですが、1人2人でやっているブランドが細かく数値を算出することが難しかったりするわけですから、そういった配慮も今後どのような基準で対応していくのかも含めて、とても期待しています。
海外でファッションに関わる良い取り組みの中で日本でも真似できそうなものはありましたか?
オランダには古着の服を持ってくと、質に応じたトークンがもらえて、割引でお買い物ができるというお店が結構ありました。トークンがなくても購入することができますし、より循環性が高いですよね。
生産背景をブロックチェーン技術でトレーサブルにするといったものも増えています。
テクノロジー関連で注目しているのはアメリカのRegen Networkです。ブロックチェーンで地球や自然を守るんですが、たとえば、農家さんが畑の土を健康にしたり、二酸化炭素を減らすような取り組みをすると、その成果が「クレジット」というデジタルな証明書で評価される。これを企業や個人が購入して、地球に優しい活動を応援するために使うことができるというようなサービスです。カーボンプライシングによって低炭素で作物が作れる上に、ブロックチェーンのシステムでお金も入ってくるんです。日本でもそういったサービスが増えるといいですね。