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コロナのタイミングで好評を博した、渋谷パルコでのポップアップ
代々木上原駅東口を出てすぐ。エッジィなウィンドウディスプレイが一際目を引くセレクトショップ「DELTA」。駅を挟んで反対側に位置するのが、2020年にオープンした「BREATH BY DELTA」だ。「環境と人権」をテーマに掲げた店内には、環境負荷の少ない生産方法で作られた洋服やアクセサリーが並ぶ。同店を始めたきっかけを大倉綾(オーナー、バイヤー)、大倉有記(オーナー、バイヤー、アートディレクター)夫妻に聞いた。
「お客様や知人を呼んで年に一回お餅つき大会を開催していたのですが、ただやるだけだと目的を見失ってしまう。ちょうどそのタイミングで、辺野古基地建設の問題や、オーストラリア森林火災が起こったので、チャリティも兼ねてやってみようという話になったんです。シーンと白けてしまうかなと思ったのですが、みなさんすごく積極的にドネーションなどに参加してくださって。想像以上にポジティブに捉えて下さったので、やはりソーシャルグッドな、何か社会に還元していく流れをもう少しお店で打ち出した方がいいのではないのかなと」(有記氏)
そう思案しているタイミングで、渋谷パルコから声がかかった。
「ちょうどコロナ禍の2020年に渋谷パルコの1階で『BREATH BY DELTA』というポップアップショップを開いたんです。この時は『DELTA』の内装を手がけた永山祐子さんの建築チームに相談して、とにかくゼロ・ウェイストで建築ゴミを一切出さない方法で内装をお願いしました」(綾氏)
バイイングの基準は2点に絞り、DELTAらしいモード感を大切に
天井が高いパルコ1階の仮店舗を仕上げるため、足場を組み、取引のあったストッキングメーカーからB品の在庫を提供してもらい、チュールのように被せた。永山のチームとDELTAチームで作り上げた店内には、HATRAの長見圭佑氏による、糸を減らしたニットのシリーズなど、取り扱いのあったブランドに声をかけ、コラボレーションした商品が並んだ。コロナ禍にも関わらずポップアップは大好評。そこから「FUTURE KIOSK」というプロジェクトを経て、実験的にスタートしたのが、「BREATH BY DELTA」だ。現在では、消費者である私たちも、サステナブルな視線で商品を選ぶことが浸透してきたが、当時のバイイングに苦労したことはなかったのだろうか?
「4年前になりますが、モードの世界では、なかなか日本のデザイナーさんで意識を持ってやっていらっしゃる方がそこまでいなくて。買い付けるのも当時はヨーロッパのデザイナーが多かったです」(綾氏)
「ハイブランドが結構そういったアプローチを始め出した時だったので、ヨーロッパは早かったですね。本当は『DELTA』も『BREATH BY DELTA』も特に分けないで、全部がエコフレンドリーだったり、ゼロ・ウェイストのものだったりするのが理想なのですが、『BREATH BY DELTA』は実験の場というか、売ることが目的ではなく、ラインナップを作った時にお客様がどう反応をするかを見て、どういう方向のアイテムを買い付けていくかを見極めていく現場という感覚です」(有記氏)
とはいえ、ジレンマもある。
「ゼロ・ウェイストでいいもの作りました、といっても、ものとして欲しいかどうかという点は大切ですよね。そのズレはすごく意識していてもやっぱり生まれてしまう」(有記氏)
「社会に対してメッセージの打ち出しは以前からしていましたが、お客様はその事実を知ってはいるけれど、自分が欲しいと思うようなアイテムでなければ買いません。商品のクオリティとモードな部分は決して崩さず、『BREATH BY DELTA』においてはソーシャルグッドなことはもう当たり前であり、その先にあるデザイン性の高さを保つように意識しています」(綾氏)
バイイングの基準はどう決めているのだろうか?
「ガチガチに決めてしまうと買い付けるブランドがどんどん減っていってしまうので、トレーサビリティと、生地が例えばリサイクルなのか環境負荷が低いかというような2点に絞って見るようにしています。もちろんもっと細かく見ていくといろいろな問題が出てきますが、まずはみなさんが慣れていくことが必要なのかなと。ただ、大量生産のコットンは買い付けないなど、これはナシだよねというポイントはいくつかあります」(有記氏)
わざわざ公言する必要のない、意識が根付いたヨーロッパのブランド
注目しているデザイナーについて聞いた。
「植木沙織さんという、もともと『SREU』というブランドでアップサイクルのコレクションを早くからやっていた方で、パリにあったコレットのサラも買いたいと言っていたぐらいの実力派。独立して今年9月に『Saori Ueki』として初の展示会を開くのですが、彼女には注目しています。私たちもいち早くユーズドのMA-1を使ってコラボレーションしたのですが、袖で作ったバッグは店頭に並ばないぐらいの売れ行きで大人気だったんです」(綾氏)
二人の買い付け方法は実にユニーク。例えば、ロンドンのセントラル・セントマーティンズの卒業生からの紹介や、海外のブティックで出合ったブランドに直接メールを送ってみたり。ミラノでは、到着後にアポイントを取ったことも。中には、トランクルームをアトリエにしていたデザイナーもいたそう。「展示会と店では見え方が違うし、カルチャーを感じながらものを探していく方が、自分たちのストーリーを作りやすい」という理由が、唯一無二なセレクションの秘密だ。
そんな中で、ヨーロッパでは大っぴらに打ち出してはいないものの、サステナブルなブランドによく遭遇するのだとか。
「『INNERRAUM』というベルリンブランドのバッグは、ユーズドのバイクのプロテクターを回収し、溶かして自分たちでリサイクルプラスチックを作っているんです。タグに何個のパーツを使ったかと書いてあって。もともと『Kuboraum』という眼鏡のデザイナーたちで、自分たちの眼鏡ポーチを作るために実験的に始めたブランドなんです」(綾氏)
「ヨーロッパのブランドには、書いてないけど、聞くとアップサイクルやサステナブルだったりする。アートに関してもそう。ゼロ・ウェイストが当たり前になっていて、わざわざ言う必要がない。グラフィックがいいストリートブランドも普通にオーガニックコットンを使っていたりする。イギリス、フランス、スペインは特に進んでいると感じますね。もちろんEUや国の政策もありますが、気候変動に対する危機感がもっと強い。日本の社会はその点、のん気というか」(有記氏)
よりよい社会のために行う、多岐にわたるプロジェクト
もっと怒ってもいい、声を上げていこう、と大倉夫妻は言う。そのアクションの一環として行なっているのが、数年前から始めた選挙割とフリーマーケット「UPPER FIELDS MKT」だ。投票済証明書の提示で20%オフとなる前者は、今年の都知事選割のヴィジュアルで大きな話題をさらった。キャンペーンには賛同者が多く、新たな来訪者も増えたそうだ。また、2021年から続けている後者は、20年来の顧客から着なくなった洋服をどうするかという相談を受け、“循環”をテーマに開催している。ミュージシャンやアーティストが出展するフリーマーケットは、若い世代にバトンを渡すことを目的とし、売上の一部はチャリティに充てられている。「DELTA」のオープン20周年でもある今年は、パワーアップしたフェスとして、12月7, 8日に開催予定だ。
問題は山積かもしれないけれど、時代の動きに反応していく店づくり
活動は着実にファンを増やし、消費者や作り手の環境問題への関心も年々高まっているように見える。そう話を振ると、少し顔が曇った。
「コロナからの揺り戻しなのか、最近は環境負荷よりも『コスパ優先』みたいな考えの人が増えている感覚もあります」(有記氏)
「コロナ禍の方が、助成金が出たり、経済が止まっていたので実験的なことがやりやすかったのかもしれません。企業もデザイナーもそこがビジネスチャンスと見込んで最初は取り組んでみたものの、やっぱりコストはかかるし、その分上代も上がります。バイヤー全員の意識が高いわけではないので、売上も伸びない」(綾氏)
「生地メーカーもサステナブルな素材が売れないから、どんどん止めていく。そうすると、デザイナーの選べる生地が限られてきてしまいます」(有記氏)
そう感じるのは、今年に入ってからだそうだ。
「2020年はコロナ中だったのもあり、フレキシブルでした。結果が出てきて、1年経って止めてしまう。やはりビジネスとして捉えているのが問題だなと思うんです。一度現状を知ってしまえば、途中で止めるという感覚はないのですが……」(綾氏)
「消費者の中では、その考えがコアになっている人は昔より多いと思うのですが、作り手側ですよね。今だったらファストファッション企業の方が、サステナビリティをルールのようにやっているから、目立つというか」(有記氏)
「本末転倒ですよね、すごくグリーンウォッシュなんですけどね。大量生産・大量廃棄こそがファッション業界の一番駄目なところなのに」(綾氏)
「持続可能なファッションのための国連アライアンス」によると、ファッション業界の温室効果ガス排出量は、全世界における排出量の約8〜10%を占めるそうだ。問題解決へ向けて一進一退を繰り返すが、彼らの姿勢はしなやかだ。
「僕らはどちらかというと、社会の動きに反応していくスタイルでやっているので、こうしたいというヴィジョンよりは、今こういう流れだから、こうするしかないよねという感じなんです。社会問題なんて本当は綺麗に解決されているに越したことはない。皮肉なことにそれがモチベーションになっているのですが……。本当はもっと自由に素敵なものを買い付けているだけでいいのかもしれない。だけど、それなら何でショップをやっているんだろう?とも思いそうですし」(有記氏)
「自分たちのエゴではなく、若いスタッフの意見を聞いて、未来ある人たちと共に作っていきたいですね」(綾氏)
有記氏が着ているシャツは、LVHM傘下のブランドのアーカイブ生地を使い、日本人デザイナーが仕立てたもの。「残反問題は本当に闇が深くて。もう作らなくていいよというぐらい生地があります。大阪にあるYuge fabric farmでは、ヴィンテージの生地などが買えるのでおすすめです」(綾氏)。
純粋なバイイングはもちろん、海外のデザイナーと兵庫県豊岡の工場を繋ぐなど、オリジナルのプロダクト作りも積極的に行なっている。