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ストーリー|2024.08.14

黒に染めれば、衣類は生まれ変わる——今こそ知りたい「京都紋付」の黒染め技術

衣服は大切に着続けていても、経年劣化や取れない汚れなどで着られなくなることがある。そんな時、黒に染め替えることで洋服は生まれ変わり、新たな思い出を刻むことができる。1915年の創業以来、100年以上にわたり黒を追求してきた黒染め専門の京都紋付。今回は、伝統的な黒染めの技術と、洋服を生まれ変わらせるREWEARプロジェクト「K」について、京都紋付4代目の荒川 徹氏に話を聞いた。

原稿:藤井由香里 撮影:塚本直純

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究極の黒を実現する、京都紋付の“深黒加工”

REWEARプロジェクト「K」をご存じだろうか?

これは、着古したり汚れてしまった洋服を黒に染め替え、新たに生まれ変わらせる取り組みだ。1915年の創業以来、美しい黒を追求してきた黒色専門の京都紋付が2013年にスタートしたこのプロジェクトは、国内外の有名ブランドとコラボレーションを実現してきた。さらに、数々の百貨店やブランドとパートナーシップを結び、黒染めの魅力を世の中に広め続けている。

京都紋付代表取締役社長 荒川 徹氏。

荒川「京都紋付には、染めるのが非常に難しいシルクの紋付を長年染め上げてきた技術があります。それを生かし、シルクはもちろん、綿、麻、ウールなどの天然繊維にも独自の深黒加工という技術を用いて、これまでの洋装にはない、深い色合いの黒染めを実現しました。」

業界ではピーク時には年間300万着の紋付を染めていたが、現在では市場は100着にまで縮小している。そこで、京都紋付は、“核となる技術を頑なに守り、世の中に必要とされる形に変化させないと伝統産業は発展的に残らない”という理念のもと、伝統的な黒染め技術を後世に継承すべく、REWEARプロジェクト「K」をスタートさせた。現在は、OEMでの黒染め加工の受託と、黒染めによる衣類のアップサイクルを行っている。

工房の様子。衣類の総重量に合わせて染料を作り、被染物に合わせた温度にまであたため、一定の時間洗液に付ける。その後、生地に定着しなかった染料を洗い落とす。

100年以上黒に染め続けてきた京都紋付の黒は、まさに漆黒。唯一無二の黒を実現するために、かつては何度も下染めを繰り返し色を重ねていた。その過程で生み出されたのが「深黒(しんくろ)」という加工技術だ。一度染料で黒染め加工を施した後、天日干しで一点一点乾かし、さらに深黒加工を行い、もう一度天日干しすることによって黒さを一層際立たせる。これは光を吸収して黒をより黒く見せる、京都紋付独自の技法だ。

深黒加工は黒色だけに作用し、他の色には作用しないのが特徴。4代目の荒川氏は、この伝統的な独自技術を現代のスタイルに取り入れ、世の中に広めようと試みている。

大切な衣類が生まれ変わる、REWEARプロジェクト「K」

REWEARプロジェクト「K」の仕組みは至ってシンプル。黒染めしたい(蘇らせたい)衣類を送るだけで、約1ヶ月半後に美しく黒に染まり、生まれ変わった衣類が手元に戻ってくる。現在は、京都紋付のホームページをはじめ、提携している百貨店やアパレル企業でも依頼が可能だ。

黒染めができるアイテムは、天然繊維が50%以上含まれているものならOK。綿、麻、シルク、ウールなど、製品染めが可能なほとんどの洋服が対象となる。シャツやジャケット、ニット、ロングコート、デニムだけでなく、帽子やトートバッグなども染め替えが可能。

染め替え後の黒は、洗濯をしても色落ちせず*、撥水効果も加わるため水分汚れにも安心。新品のようなソフトな風合いに生まれ変わるのも嬉しいポイントだ。さらに、洋服にほつれや破れがある場合は、有料でお直しもできる。

天然繊維のみが染まるため、プリント部分やステッチが染まらずに浮かび上がるのも黒染めの面白さ。これまでとは異なるデザインを楽しめるのも魅力の一つだろう。
一方で、装飾が過剰なものやアクリル繊維が入っているものは、黒染めが難しい場合がある。そのような場合は返却されるが、「黒染めできる可能性を探るためにも、一度染めに出してみてほしい」と荒川氏は言う。

そして、REWEARプロジェクト「K」の興味深いポイントは、シンプルで誰にでもわかりやすい仕組みにある。このシステムを導入したい企業やブランドには、システム自体が無償で提供され、受注を受けるたびに一定のコミッション収入が得られる仕組み。パートナーは、このシステムを導入することで、売上の一部が還元されるという素晴らしい循環を築き上げている。

荒川「このシステムを福利厚生として導入している企業もあります。こうした枠組みを広めることで、日本中で廃棄される衣類を減らすことにつながりますし、黒染めが衣類を再生する手段の一つとして、日本だけでなく世界にも広まって欲しいと願っています。」

アパレル企業がこのシステムを導入しデザイナーが黒染めによる再生を意図してデザインすることで、消費者は一点の衣類で2回デザインを楽しめ、またアパレル会社は販売と染め替えで2回利益を享受でき、廃棄衣類の削減につながるスキームになっている。

ホームページやポスター、QRコードなど、さまざまな方法でプロモーションを行っている。

このシンプルなシステムが評判を呼び、多くの百貨店や企業、ブランドが取り扱いを行っている。

荒川「影響力のある会社が染め替えの窓口となり、注文を受けてくださるおかげで、多くの方にこのサービスを届けることができています。24時間365日営業ができることで、お客様はいつでも好きなタイミングで染め替えが可能です。」

毎年20%増で受注数が伸びている一方で、職人や事務員の数は増えていない。その理由について、荒川氏は以下のように説明する。

荒川「紋付を手掛ける場合は、紋を描くなど様々な工程がありますが、染め替えは大きく2工程だけなんです。一度染めたら乾燥させて、深黒加工する。ノウハウは染料と薬品にあり、あとは機械に入れて温度と染料を調節し、4時間半ほどで染めが完結します。このプロセスを徹底しているので、非常に効率が良いのです。」

大切な衣類をより長く着続けるために、“黒染め”という選択を

黒染めの技術は、薬品と染料の知識を活用すれば数週間で習得が可能だという。そのため、このシステムを活用し、今後はニューヨーク、中国、オランダの3カ国で展開し、日本と同様に海外でも染め替えの受注を行う予定だ。初期は海外で受注を行い、京都で染め替えを実施するが、将来的には現地での染め替えが可能になるよう整えていく予定だ。現在、日本で広まりを見せている染め替えだが、今後は世界中でも染め替えの文化が広がることが期待されている。

荒川「私たちは、染め替えを通じて伝統産業の継承をしていかなければならないと思っています。受け継いできた技術を世の中に広め、後世に残すことをビジョンに掲げています。この思いに共感していただけるなら、ぜひ黒染めを体験してみてください。絶対にかっこよく仕上げることを約束します。」

筆者も以前からREWEARプロジェクト「K」を利用している。以前、日焼けしてしまったブルーのシャツを黒染めしたところ、見事に生まれ変わり、既存のデザインでは目立たなかったステッチが浮かび上がり、新しい洋服を手に入れたような感覚になった。毎度、衣類が生まれ変わる瞬間の感動は忘れられない。

大切な衣類を長く着続けるために、黒染めという選択があること。
黒染めすることで衣類が生まれ変わり、新たな気持ちでその洋服との思い出を刻むことができる。
もし手元に着古したり汚れてしまった洋服があるならば、ぜひ黒染めを試してみて欲しい。

京都紋付 REWEARプロジェクト「K」
https://www.k-rewear.jp/somekae/

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