エディターズコラム|2023.12.13

草や木や、羊や石油を着て、わたしたちは生きている

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今回は、意外と知らない服の繊維のお話。サステナブルファッションを考える時に知っておきたい、繊維の基本知識をお伝えします。

「優しい天然繊維」
「地球のために、サステナブルコットンを」
「赤ちゃんの肌にも安心なオーガニックコットン」
「サステナブルなリサイクルポリエステルをXX%使用しています」

など、コットンやリサイクルポリエステルなどの「素材」から、サステナブルであることや優位性をうたう商品は多くありますよね。服の素材は、デザイン、着心地、価格、質だけでなく、生産時の自然環境や労働者への負荷、手入れのしやすさ、リサイクルのしやすさなどのサステナビリティに直結する選択のため当然のことです。

とはいえ、繊維による製造工程や環境負荷の違いは、普通の生活者の方はなんとなくのイメージで理解している方がほとんどかと思います。

「オーガニックって、農薬を使っていないから環境にも肌にも良いイメージ。じゃあオーガニックじゃないコットンを着てるときには素肌に農薬つけてるってこと?」
「ウールやカシミアは動物の毛?今私はなんの動物の毛を着てるの?」
「天然繊維は良い、化繊は悪いと耳にするけどほんと?」

こんな疑問を持ったことがある方、言われてみれば気になる!という方、多いのではないでしょうか?そんな方は、まずは下の繊維分類を、自分のお気に入りの服のタグ(裏についている品質表示タグ。必ず素材が書いてあります)をチェックしながら見てみてください。

繊維分類

元を辿れば、ポリエステルやナイロンは石油、コットン(綿)は植物、ウールは一般的に羊、カシミアはヤギ、シルクは蚕(かいこ)と呼ばれる虫の幼虫が吐き出す糸、レザーは動物の皮、リヨセル(またはテンセル®)はユーカリの木のチップからできています。

人と服の長い歴史の中で、技術が開発されてきたことを感じます(それにしても誰が最初にシルクを布にすることを思いついたんでしょうか?)。

繊維は大きく2つに分類されます。天然繊維と化学繊維(化繊・かせん)です。天然繊維は植物や動物からできたもの、化学繊維にはポリエステルなどの石油由来の合成繊維もあれば、レーヨンやキュプラなど木材や綿を原料に科学的な工程を経てできたものもあります。

イメージ的には天然繊維の方が人や環境に優しそうな気がしますが、実は、製造に必要な枯渇資源、エネルギー、化学物質や水資源の使用量などを比べてみると、必ずしも天然=よい、化繊=悪いという単純な話ではありません。曖昧な表現には気をつけてくださいね。

それでは上記の繊維分類をふまえた上で、サステナブルファッションの視点から繊維を再分類してみましょう。

①オーガニック

つまり・・・農薬などによる土壌環境汚染や、栽培や生産に関わる労働者の健康に配慮したもの。
例えば・・・オーガニックコットン

オーガニックとは、平たく言えば化学農薬を使わずに育てられた作物のこと。オーガニックコットンとは、化学農薬を使わないなど、それぞれの国の有機農法のルールに沿って育てられたコットンのことをいいます。オーガニックコットンの生産量は全世界のコットン全体の1%にも満たない貴重な作物です。

オーガニックコットンのメリットは、化学農薬を使わないことで畑の土壌が豊かになり、土壌に含まれる有機物が水を守ることができることです。また、コットン農家の方々の健康と生活を守ることもできます。実際にコットン農家への化学農薬による健康被害や、農薬購入にかかる経済的負担は大きな問題となっています。オーガニックコットンを選ぶということは、生産者を守り、生産地の環境を守ることを選ぶということなのです。

ちなみによくある誤解で、「オーガニックコットンは肌に優しい」「赤ちゃんの肌にも安心なオーガニックコットン」というものがありますが、最終的な製品としてのオーガニックコットンと非オーガニックコットンとは顕微鏡で見ても差はほとんどわかりません。

②低化学物質コットン

つまり・・・農薬や殺虫剤の量を減らして栽培したコットン
例えば・・・IPM(Integrated Pest Management 総合的病害虫管理)、Cleaner Cotton

①のオーガニックコットンのメリットは、土壌、生態系、また綿畑で働く人の健康を守ることができること。更に今は希少価値もあるので、高い値段で売ることができます。

とはいえ、農家の立場に立つとそれほどいいことばかりではありません(いいことばかりだったらみんな既にやっているはずですね)。オーガニックコットンへの移行は、比較的不確実な害虫対策、収穫量減など農家にとっては死活問題となるものと向き合わなければなりません。

たとえば害虫が群れで飛んできたり大量発生したらどうやって綿を守るのか?今までのように殺虫剤を撒ければいいけれど、オーガニックだとそれができずに泣く泣く大切に育てた綿花が食べられていくのを見るしかないのでしょうか。

また、無事に収穫までできたとしても収穫量は従来のコットンよりは減少します。そう考えると、綿農家が難易度の高いオーガニックへの完全以降に二の足を踏む気持ちもわかりますよね。そこで出てきたのが低化学物質コットンです。

農薬は使うけれど、従来のものよりは少なくしてみる。または、無農薬にチャレンジするも、途中で殺虫剤や農薬を使う必要が出てきた際には使ってもよしとする仕組みです。無農薬への移行はハードルが高いけれど、低農薬だったら沢山の人が挑戦できる、沢山の人が挑戦できるということは、結果的に農薬使用の総量の削減に貢献できるという考え方です。

③リサイクル素材

つまり・・・使用済みの服や他の資材をリサイクルして作られたもの
例えば・・・リサイクルポリエステル、リサイクルコットン等

ゼロから新しく作られたものを「バージン素材」と呼び、ペットボトルや他の服などからリサイクルして作られたものを「リサイクル素材」と呼びます。製造に必要なエネルギーや水の量が大幅に節約できることから、バージン素材の利用を減らし、リサイクル素材の活用を今後増やしていくことが衣服の循環システムを構築する上で大きな鍵となっています。

一般的にリサイクル素材は推奨したいものですが、近年注目されているペットボトル由来のリサイクルポリエステルは、「ペットボトルとしてであれば何度も何度も生まれ変わることができるけれど、それを服にしてしまうとその次のリサイクルに繋がらず、着た後はゴミになってしまう」という理由で懸念されるケースが出てきました。服になった後のリサイクルルートの確立も急がれます。

④生分解性繊維

つまり・・・土に還るということ。
例えば・・・コットン、リネン、リヨセル(テンセル®)、ウール、バイオポリマー、毛皮

土に埋めると数日から数ヶ月の間に微生物に分解される繊維を生分解性、プラスチックのように状況によって200年以上かかるような繊維を非生分解性と呼びます。

大まかにいって合成ポリマー(ポリエステル等の石油繊維)は非生分解性、リヨセル等天然ポリマーの化学繊維を含めた自然素材は生分解性と考えて良いでしょう。生分解性のある繊維は廃棄後比較的短期間で無害な物質に変わるため環境への影響が抑えられます。

ここでの注意点は、生分解は温度や湿度が一定の条件下で達成されるため、廃棄後焼却処理をまぬがれ(そもそも焼却されてしまったら元も子もない)埋め立て地にいったとしても、そこで分解されるとは限らないということ。

家庭用コンポスト(生ゴミなどを発酵させて肥料をつくるシステム)はなかなか都市部では難しいし、仮に庭があったとしても最終的に服を庭に埋めるか?という疑問も残ります。更に廃棄は繊維単位ではなく、染料や特殊加工、糸やジッパー、ボタン等の副資材を含めた服単位で行われるため、繊維だけでなくその他の行程で使われる材料についても気を配る必要があります。

理論的には生分解性があったほうが環境に優しいとは言えますが、最終的に適切な環境の土に還るまでの工程がデザインされていないと実際のインパクトは限られるかもしれません。

⑤新技術

例えば・・・PLA、代替レザー、ブリュードプロテイン等

エコ繊維の技術も日々進歩しています。繊維にまつわるあらゆる課題—原料の再生可能性、生分解性、水や石油資源の使用などを解決し、且つデザイナーのイメージを形にできる美しさ、そして長期間の着用や洗濯に耐えられる機能性や耐久性を備え、更に市場性を持つようコストを抑えた素材が新たな技術によって開発されつつあります。

「新」技術というには既に定着していますが、1992年にはじめて製造されたテンセル®もそのひとつかもしれません(テンセル®は商品名。繊維名はリヨセルです)。分類では化学繊維の一種である天然ポリマーに分類され「再生繊維」とも呼ばれます。

見た目は落ち感があり、少しとろっとした感じの生地。原料は計画的に栽培管理された森で育ったユーカリの木です。繊維にする過程の溶剤は99.9%リサイクル、リサイクルされなかったものも微生物に分解させるバイオ処理がされています。

他にはPLA(ポリ乳酸繊維。これも天然ポリマーですね)の分野でも新しい生地が開発されています。その他の注目株は日本発のスタートアップ、Spiber社が手がけるブリュードプロテイン、きのこやサボテンからできた代替レザーなど、新たな境地を切り開くテクノロジーに投資が集まっています。

サステナブルファッションといえば、古き良きやり方で作るスローファッションを連想させるかもしれません。でも実は、自然や手作業、伝統的な手法、過去に戻るだけではなく、テクノロジーを使って未来から持ってくるものでもあるのです。

⑥既にあるもの

つまり・・・過去に既に生産されたもの
例えば・・・古着、デッドストック、「エンドオブシーズン」ロール(縫製されなかった生地ロール)等

たくさんのエコな素材を見てきましたが、環境負荷という点から見ると過去に既に生産されたものに勝るものはありません。

沢山のエネルギーをつぎ込んで作られたヴァージンポリエステルであっても、数十年前に作られた古着など既にあるものである場合は、今から沢山の水と資源を使って作る新品のオーガニックコットンよりも「まだまし」なのかもしれません(染色や洗濯時のマイクロプラスチック問題は考えなくてはならないですが)。

作られたからには、あとは活用するのみ。既にあるものを使用するには、量のコントロールができないため量産(同じものをたくさんつくること)には向いていませんが、特別感のある1点もの等、その特性を活かすことで面白いことができそうですね。

さて、「サステナブル」と呼ばれることが多い素材をみてきました。これを使えば全て解決!という素材があれば簡単なのですが、そうもいかないのが難しい所。自分の価値観や興味のある視点を照らし合わせてみて、大切にしたいことをしっかり考えてみてくださいね。

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本記事は日本のユーザーの方のために、「多様で、健康的なファッション産業をつくる」ことをミッションに活動する一般社団法人unistepsが執筆しています。

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