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「スーツ再生プロジェクト」は、髙島屋が2021年に始動した循環型プロジェクト「デパート デ ループ(Depart de Loop)」の新たな取り組みだ。ビジネスシーンのカジュアル化などを背景にスーツの着用機会が減る中、紳士服バイヤーが家庭で着られないまま眠る「休眠スーツ」に着目。24年にプロジェクトを立ち上げ、25年から回収を始めた。これまでに回収したスーツは約3200kg。髙島屋のバイヤーが起点となり、回収から反毛、紡績、生地開発、製品化まで各工程を担う企業を直接つなぎ、独自のサプライチェーンを構築した。さらに、再生素材特有の色ムラを逆手に取った生地を開発し、国内外6ブランドと8アイテムを企画した。

スーツの再資源化は容易ではない。Tシャツなどとは異なり、表地だけでなく芯地や肩パッドなど、さまざまな素材や副資材で構成されているためだ。再利用するにはそれらを分別する必要があり、手間や時間、コストがかかる。
MD本部紳士服・紳士雑貨・スポーツ部バイヤーの奥村歩武さんは、「髙島屋は年間数万着のスーツを販売しています。だからこそ、その先まで責任を持ちたいという思いがありました」と語る。当初、産地の関係者にスーツの再資源化について相談したものの、「多くの方から『スーツはやめた方がいいですよ』と言われ、ハードルが高いと実感しました」と振り返る。

それでもバイヤー自ら各地へ足を運び、工程ごとに協力企業を一社ずつつないだ。回収したスーツの分別・裁断、反毛してワタ状に戻す工程は故繊維業の東谷商店(大阪府・泉佐野市)と連携。その後、三田紡績(大阪府岸和田市)がバージンウールなどを加えて紡績し、長年、髙島屋と取引のある御幸毛織(名古屋市)と生地を共同開発した。糸の強度や風合いを追求し、再生原料とバージンウールの配合を調整した結果、完成した100%ウール生地には「休眠スーツ」由来の原料を約17%使用している。
通常は商品の販売を担う「川下」に位置する百貨店が、顧客から回収したスーツを原料として確保し、川上の素材開発にまで踏み込んだ点が今回の取り組みの特徴だ。商社を介さず各工程を直接つなぐことで、商品として成立する価格にもつなげたという。
MD本部紳士服・紳士雑貨・スポーツ部バイヤーの米島力伊さんも、「私たちは川下の小売りですが、自分たちで原料を調達し、川上までつないで商品をつくっています。サプライチェーン全体を構築したことで、今後は川中や川上も含め、いろいろなところにビジネスチャンスがあると感じています」と話す。
リサイクル素材の「ムラ」を意匠に変える

さまざまな工程の中でも試行錯誤を重ねた工程のひとつが生地開発だ。回収したスーツから取り出したウールをどこまで細い糸にできるかを検証するところから始め、複数の糸を試作した。さらに課題となったのが、マテリアルリサイクル原料ならではの色の不均一さだった。黒いスーツを中心に回収しても、芯地など異なる素材が混ざることで、糸や生地に色ムラが生じる可能性がある。そこで御幸毛織と考えたのが、ムラを隠すのではなくあえて生地の表情として生かすことだった。「弱みを強みに変えようと考えました」と米島力伊さん。

再生した黒い糸に白い糸をあえて撚り合わせ、ホームスパンを思わせる杢調の表情をつくった。黒糸と白糸は番手も大きく異なり、通常ではあまり組み合わせない設計だという。6、7種類の生地を試作し、最も美しく見える組み合わせを探った。リサイクル素材ゆえに生じる不均一さを欠点として取り除くのではなく、素材の個性として意匠へ転換した。海外の協業ブランドからも御幸毛織の生地の完成度は高く評価され、回収したスーツ由来のウールを使っていることに驚く声があったという。
「サステナブルだから」ではなく「いいものだから」

(右)「バルスター」のブルゾン13万7500円と「ジャブス アルキヴィオ」のパンツ4万4000円
完成した生地は、髙島屋のバイヤーがブランドに直接持ち込み、プロジェクトの背景を説明しながら商品化を進めた。商品開発で重視したのは、リサイクル素材を使っていること自体を価値にするのではなく、ファッションとして魅力のある商品に仕立てることだ。「サステナブルだから売れるとは思っていません。やはり『いいものだから売れる』から」と奥村さん。
そこで協業先には、ものづくりに定評のあるブランドを選定した。イタリアの「バルスター」では、同ブランドを代表するフライトジャケットをベースに商品を企画。パンツでは同じくイタリアの「ベルウィッチ」と協業した。このほかウガンダの「ブジガヒル」などを含む6ブランドで8アイテムをそろえた。米島さんは、「スーツからスーツに再生するのではなく、今の大人が楽しめるカジュアルウエアへと生まれ変わらせる。それが現在のライフスタイルに最も合っているのではないかと考えました」と説明する。
海外ブランドとの協業では、サステナビリティへの意識が高いからこそ、取り組みの実態も厳しく問われたという。「『これは本当にサステナブルなのか』『どういう取り組みか』と、かなり細かく聞かれました。そこでプロジェクトの背景や仕組みを説明し、納得していただいた上で『それなら一緒に取り組もう』となりました」。
服にならない部分は3Dプリンターで什器へ

さらに「服から服」だけでは循環できない素材にも目を向けた。芯地やパッドなど複数の素材が混ざり、繊維として再生することが難しい部分については、京都工芸繊維大学と住宅建材メーカーの城東テクノと協働。スーツ由来の繊維にポリプロピレン樹脂を混ぜてペレット化し、3Dプリンターを使って店舗什器へと再生した。造形には「ハンギングプリント」と呼ばれる手法を採用。3Dプリンターのノズルから射出した素材を自重で垂らしながら積層することで内部に空間を設け、軽量化と特徴的なデザインを両立した。今回の検証では、樹脂に繊維を混ぜることで強度が向上するほか、3Dプリント時に生じやすい樹脂の反りを抑える効果も確認できたという。
回収から販売まで、百貨店が輪をつなぐ
髙島屋が重視するのは、顧客から回収したものを再生し、再び商品として売り場へ戻すことだ。「お客さまから回収させていただいたものを再生し、こうして再び売り場でお客さまにご覧いただく。そこが、百貨店である髙島屋がこの取り組みを行う一番のポイントだと思っています」と話すのは、「デパート デ ループ」プロジェクト全体を担当する橋祐介MD本部化粧品・特選・宝飾品部バイヤーだ。
「デパート デ ループ」は衣料品の廃棄問題に対し、商品を販売する百貨店も当事者として責任を果たしたいとの考えからスタートした。当初はJEPLANと連携し、回収したポリエステル製品をケミカルリサイクルによって原料に戻し、再び製品化する取り組みから始めた。その後、素材やアイテムごとに適したリサイクルパートナーや仕組みを構築し、デニムやカシミヤへと対象を拡大。現在はコスメ、羽毛布団、陶磁器など衣料品以外にも領域を広げ、7つのプロジェクトを同時並行で進めている。
橋さんは、「回収活動をするだけでは片手落ちですし、再生素材を使った商品を販売するだけでも、われわれのミッションはかなえられません。回収したものをリサイクルパートナーの力を借りて再生し、髙島屋でもう一度製品化して販売する。『回収・再生・販売』のビジネスモデルを構築できた段階で、回収を始めることにこだわってきました」
今回のスーツ再生は、その考えを、素材開発から商品化まで一貫したサプライチェーンとして具体化した一例となる。
【スーツ再生プロジェクト ポップアップ】
■10月7日(水)~13日(火)
日本橋本館6階 SPACE 6-①
■10月21日(水)~27日(火)
新宿ファム・メゾン4階 特設会場
【Depart de Loop 衣料品回収キャンペーン】
10月は全国の11店舗の特設会場にて衣料品を回収中
https://www.takashimaya.co.jp/store/special/depart_de_loop/retrieve_campaign.html