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私たちが毎日身につけている服は、世界各地のさまざまな環境負荷とつながっています。温室効果ガスについて考えるとき、どこでの排出が多いかという“排出源”の視点が欠かせません。
本コラムでは消費地と生産地での異なる環境負荷について、炭素排出量の観点からグローバルサウスとサプライチェーンを中心に考えます。
キーワード
グローバルサウス サプライチェーン CO₂
日本女子大学 専任講師 勝又淳司
日本女子大学・家政学部被服学科専任講師。博士(サステイナビリティ学)。国内スポーツメーカーでの企画や営業、文化服装学院の教員を経て現職。繊維産業のサステナビリティについて、消費者や環境政策の観点から研究しています。研究を通してファッション業界がより良い業界になればと考えています。
ファッション産業の構造的課題。「生産地」と「消費地」のいびつなギャップ
衣服の製造工程は複雑で、排出源も一か所ではなく、糸づくり・生地づくり・縫製・輸送・販売と世界中に散らばっています。ここで見えてくるのが、「製造地」と「消費地」が異なる構造です。衣服の多くは、バングラデシュ、ベトナム、インドなど、いわゆるグローバルサウスで生産され、欧州や日本、北米で消費されています。
例えば欧州で販売される一枚のTシャツを想像してみてください。綿花をインドで栽培して糸にし、中国で生地になり、染色や加工を行った後、バングラデシュで縫製。そこから船で欧州へ運ばれ、物流拠点を経て、パリの店舗に並ぶ――ということもあります。つまり、私たちが店頭で手に取る一枚の衣服は、いくつもの国境を越えて、ようやく手元に届いているのです。
分業されたサプライチェーンと国境を越えるCO₂排出
日本で販売される衣服も同じです。筆者が企業在籍時に扱っていたスポーツウェアであれば、日本でのポリエステル糸の研究開発が行われ、中東産の原油を原料としたポリエステルを用い、タイでテキスタイル製造から縫製まで行い、日本でプリント加工を行ったのち物流拠点を経て店舗に並ぶ、といった国際分業となっていました。原料から製品になるまでの工程を一つの国で完結するのではなく、それぞれの工程を得意とする国や地域を経由しながら、一枚の衣服がつくられます。
このように考えると、衣服の「生産地」を一つの国だけで捉えることが、いかに難しいかが分かります。そして、それぞれの工程でエネルギーが使われ、温室効果ガスが排出されるため、衣服一枚の環境負荷を考えるには、国境を越えたサプライチェーン全体を見る必要があります。
たとえばポリエステル生地なら、まず①中東での石油採掘段階でCO₂が排出され、つづいて繊維の原料をつくる化学工程で大量のエネルギーが必要になります。②製造された繊維原料がテキスタイルとなり、アジアで染色や縫製やプリントなどの二次加工がされます。③で出来た衣類が輸送され、日本で消費されます。④近年は一部の中古衣料がアジアに出荷され、さらにその一部がアフリカへと送られている模様です。⑤そしてこれらは廃棄の段階でも、温室効果ガス(GHG)の排出につながります。この流れを表したものが図1となります。

なぜ特定の国に排出源が集まるのか?「炭素生産性」という視点
また、途上国では、電力が石炭火力に頼っていたり、設備更新が進みにくかったりするため、同じ製品を作る場合でも先進国より排出量が多くなりがちです。ファッション産業の排出は「どの国で作っているか」によっても大きく変わります。この点に関して、筆者も「同じ金額の衣類を製造する際に、二酸化炭素の排出量が国ごとにどの程度異なるのか」について、「炭素生産性」という考え方を用いて分析しました。炭素生産性のイメージを図2にまとめました。

衣類の生産国を襲う気候変動:失われる雇用と経済への打撃
そして、衣服を生産している国々は、気候変動の影響を受けやすい地域でもあります。コーネル大学による、気候変動が生産国に及ぼす影響をシミュレーションしたレポートでは、バングラデシュ、カンボジア、パキスタン、ベトナムの4カ国を対象に、極端な暑さや洪水によって、2030年までに約650億ドルのアパレル輸出収入と約100万人の新規雇用の機会が失われる可能性があると推計されています。さらに、十分な気候適応策が取られなければ、2050年には4カ国のアパレル産業の輸出収入が、適応を進めた場合と比べて約69%低下し、約864万人の雇用が失われる可能性も指摘されています。¹
バングラデシュでは縫製品の輸出がGDPの1割強を占める基幹産業です。²しかしこれらの国で気候変動による労働生産性の低下が起きれば、各国の経済発展の機会を損なうとともに、周りまわって衣料品消費にも影響を及ぼす可能性があります。では、私たちはどう向き合えばよいのでしょうか。生産国の労働生産性や、空調設備に思いを馳せることも重要でしょう。また、ひとつの重要な考え方は「排出源で捉える」だけでなく、「最終需要(消費)によって生じる排出として捉える」ことです。
CO₂排出を生み出しているのは誰か?「消費地」としての私たちの責任
衣服を購入する私たちが素材や耐久性に気を配ること、企業がサプライチェーン全体で排出削減に取り組むことは、最終的に世界の排出構造を変える力になります。また、本コラムでは二酸化炭素の排出を中心に述べていますが、消費地と生産地が異なる点は多岐に渡るファッション産業の環境負荷において、喫緊に解決すべき問題となります。
筆者個人としては、これらのバランスが悪い構造について、消費地側がもう少し環境への負荷を負担する環境税が望ましいと考えています。これはカーボンプライシングについて述べる際に言及します。
¹ ILR Global Labor Institute. (2023). Higher Ground? Executive Summary. Cornell University, ILR School, Global Labor Institute & Schroders. https://www.ilr.cornell.edu/global-labor-institute/higher-ground-fashions-climate-breakdown
²日本経済新聞、バングラデシュ、コロナで注文取り消し「補償を」縫製輸出 世界2位 欧州アパレルに外交圧力、2020年6月7日