• トップ
  • Learning
  • 知ってるつもりを解消する「Shift C サステナ・ゼミナール」Vol.6 服の廃棄と環境問題

ファッション|2026.11.02

知ってるつもりを解消する「Shift C サステナ・ゼミナール」Vol.6 服の廃棄と環境問題

サステナブルファッションの“基本のキ”を学ぶ「サスゼミ」。第6回は衣服を作るときだけでなく、廃棄するときに発生する温室効果ガス、特に「メタン」について解説。「服を手放すこと」が、遠い国の環境破壊につながっているかもしれないという現実を知ろう。

原稿:勝又淳司

Share :
  • URLをコピーしました

これまでの記事はこちら

Vol.1 温室効果ガスとファッション
Vol.2 服の原料と温室効果ガス
Vol.3 ポリエステルと炭素排出量
Vol.4 服と“土地利用”の密接な関係
Vol.5 服のCO₂、排出源はどの国?

私たちが毎日身につけている服は、世界各地のさまざまな環境負荷とつながっています。特に温室効果ガスについて考える上では、どこでの排出が多いかという“排出源”の視点が欠かせません。

本コラムでは消費地と生産地での異なる環境負荷について、炭素排出量の観点からグローバルサウスとサプライチェーンを中心に考えます。

日本女子大学 専任講師  勝又淳司

日本女子大学・家政学部被服学科専任講師。博士(サステイナビリティ学)。国内スポーツメーカーでの企画や営業、文化服装学院の教員を経て現職。繊維産業のサステナビリティについて、消費者や環境政策の観点から研究しています。研究を通してファッション業界がより良い業界になればと考えています。

前回のコラムまでで、ファッション産業における二酸化炭素(CO₂)の排出源について紹介しました。衣服の製造に関する環境負荷の多くは、生産国であるグローバルサウスに集中しています。しかし、環境負荷は「つくるまで」で終わりではありません。衣服が一旦役目を終えた後、どこでどのように処分されるのかという視点も、同じくらい重要です。

衣類の「廃棄」から発生する強力な温室効果ガス「メタン」とは

近年、気候変動の議論で改めて注目されている温室効果ガスの一つがメタンガスです。メタンガス(CH4)はCO₂より高い温暖化効果を持つ一方、大気中での寿命は比較的短く、排出削減による気候改善効果が現れやすいことが知られています。これを表したものが図1です。そのため近年は、世界的にも「メタンガス削減」が重要な気候変動対策として位置付けられています。

図1 二酸化炭素(CO₂)とメタンガス(CH4)の比較

ファッション産業においてメタンガスというと、ウール(羊毛)の原料となる羊の飼育時(ゲップなど)に発生するものがよく挙げられます。しかし、近年ではもう一つの排出源として衣類廃棄物が注目されるようになっています。

筆者は、ガーナで電子廃棄物を用いたアート活動を行う長坂真護氏およびMAGO MOTORS JAPANの取り組みについて、UPDATERが共催したイベントに参加しました[1]。現地で撮影された映像には、海岸に積み重なる大量の衣類が映し出されていました。それらの多くは、ヨーロッパなどから「寄付」として送られた中古衣料です。しかし、そのすべてが再利用されるわけではなく、品質が低いものや需要に合わないものは行き場を失い、最終的には埋立地に送られたり、不法投棄されたりして深刻な環境破壊を引き起こしています。こうした現状を変えるための、長坂真護氏およびMAGO MOTORS JAPANの取組みは素晴らしいので、興味のある読者はぜひ参照していただけたらと思います。

「寄付」のつもりが環境破壊に?アフリカへ渡る古着のリアル

天然繊維を含む衣類が酸素の少ない埋立地で分解されると、嫌気性分解によってメタンガスが発生します。MAGO MOTORS JAPAN代表の木村氏による現地の写真を見て「これはメタンガスが発生するわけだ」と戦慄を覚えました(図2)。また、ファストファッションの大量生産・大量廃棄は、こうした廃棄段階まで含めたライフサイクル全体で評価すべきであることも指摘されています[2]。

筆者の研究でも、多地域産業連関表(EXIOBASE)を用いて衣類のライフサイクルを分析したところ、廃棄段階に伴う温室効果ガスは、アフリカ地域でも一定規模発生している可能性が示されました(図3)。「衣服は生産だけでなく、廃棄の段階でもグローバルに環境負荷が転移している」ことを示唆しています。

実際に、衣類廃棄による温室効果ガスの発生量は、1995年の約7,700万t CO₂-eqから、2020年には1億5,700万t CO₂-eqへとほぼ倍増しており[3]、現在では中国を含むアジアとアフリカだけで全体の約8割を占めています。

廃棄物処理における高い処理技術を持つ先進国では国内での温室効果ガスの排出が抑えられる一方、不要となった中古衣料の多くが輸出されています。特にアフリカのガーナやケニアなどには大量の中古衣料が流れ着き、需要のない服が野ざらしで廃棄されることで、結果としてこの地域での深刻な温室効果ガス(メタンなど)の発生に繋がっているのです。

図3 繊維廃棄物によるメタンガスの発生量推移 出所:EXIOBASEより筆者作成

衣服は、日本で不要になった後も日本国内で処分されるとは限りません。一部は中古衣料としてアジアを経由し、最終的にアフリカへ輸出される流れも報告されています。私たちは「不要になった中古衣料を輸出・寄付した」と考えていても、その先では処理能力を超えた廃棄物となり、結果としてメタンという温室効果ガスの排出責任まで海外へ”輸出”している可能性があります。少し強い表現を使えば、先進国は衣類だけでなく、メタンガスまでも「寄付」している構造といえるのかもしれません。

衣服の一生を辿る「グローバル・プロダクト・ジャーニー」という視点

マーケティングには、商品について消費者が出会ってから購入までを考える「カスタマージャーニー」という考え方があります。しかし、これからのファッション産業では、それだけでは十分ではありません。衣服が世界のどこで生産され、流通し、使用され、そして最終的にどこで廃棄されるのかという「グローバル・プロダクト・ジャーニー」という視点が必要ではないかと筆者は考えます。

こうした問題の背景には、そもそも衣服が市場にあふれすぎているという構造があります。もちろん、すべてのブランドがそうではありません。Shift Cで紹介されているようなブランドには、生産量を適切に管理し、長く使える製品づくりを目指す企業も数多くあります。

一方で、近所の量販店を訪れると、機能性をうたった低価格衣料が数多く並んでいます。しかし、本当にその衣服は必要とされているのでしょうか。十分な需要が見込めないまま生産された服は、売れ残ればいずれ世界のどこかで環境負荷となります。たとえ素材が天然繊維であれ化学繊維であれ、生産・輸送・販売の過程で多くの資源とエネルギーを消費しています。本稿の主旨とズレますが、筆者が量販店で見たポリエステル100%・500円のTシャツには「接触涼感・吸汗速乾」の機能が謳われていましたが、触った感じはまったく接触涼感ではなく、エビデンスも示されていませんでした。これは筆者の私見では景品表示法に抵触しそうですが、野放図となっていそうです。このような衣料品が市場に溢れる産業構造に関しても見直すべきではないでしょうか。

ファッション産業の環境問題は、生産国だけの問題でも、消費国だけの問題でもありません。これからは、生活者も製造から廃棄までを世界全体で捉える視点が、持続可能なファッションを考える上でますます重要になっていくのではないでしょうか。


[1]みんなSX for Biz・MAGO MOTORS JAPAN株式会社, ガーナのゴミを50億円に変える 〜アーティスト・長坂真護の挑戦 “サステナブル・キャピタリズム”とは〜

[2] Niinimäki, K., Peters, G., Dahlbo, H., Perry, P., Rissanen, T., & Gwilt, A. (2020). The environmental price of fast fashion. Nature Reviews Earth & Environment, 1(4), 189–200. https://www.nature.com/articles/s43017-020-0039-9 [1] Mt CO₂-eq(CO₂換算百万トン)は、メタンなど異なる温室効果ガスを、温暖化への影響を基準に二酸化炭素へ換算した単位。異なる温室効果ガスの排出量を比較する際に用いられる単位です。

[3]United Nations Environment Programme (UNEP) & Climate and Clean Air Coalition (CCAC). (2021). Global Methane Assessment: Benefits and Costs of Mitigating Methane Emissions. Nairobi: United Nations Environment Programme. https://wedocs.unep.org/items/80f0307b-6b9a-4e9d-9be4-3314e79c8e09

Share :
  • URLをコピーしました
日本女子大学 専任講師
勝又 淳司
日本女子大学・家政学部被服学科専任講師。博士(サステイナビリティ学)。国内スポーツメーカーでの企画や営業、文化服装学院の教員を経て現職。繊維産業のサステナビリティについて、消費者や環境政策の観点から研究しています。研究を通してファッション業界がより良い業界になればと考えています。一緒に消費者行動の実証分析を行える企業様も募集中です!

Ranking ウィークリーランキング (2026.10.26〜11.02)

Instagram Follow us