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ファッション|2026.09.04

パタゴニア「ビジネス・ダイアログ」で語り合う、循環経済の現在と未来

パタゴニアが昨年発行した初のワーク・イン・プログレス・レポートに基づき、対話を深めながら未来のビジネス変革につながる視点を育む学びのフォーラム「ビジネス・ダイアログ」。7月29日に東京・京橋で行われた第2回の模様をダイジェストでお届けする。

 

原稿:岩井光子

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今回のテーマはサーキュラリティ(循環性)。日本や欧州で進むルールメイキングの現在地も学びつつ、繊維産業のサーキュラリティをどう前に進めていくか。会場となった東京中央区のCity Lab Tokyoには、アパレル業界やパタゴニアのビジネスに関心を持つ人たちが集まり、パタゴニアの好事例や課題も共有しながら、自由闊達なやり取りが繰り広げられた。

司会を務めたパタゴニア日本支社の篠健司さんから、この日の対話のベースとなるパタゴニアの「ワーク・イン・プログレス・レポート」の概要について紹介があった。今回取り上げるテーマ「サーキュラリティ:私たちは廃棄物について何をしているのか」も、150ページを超えるレポートの項目の一つにある。篠さんは、そのページを参考にパタゴニアの廃棄物に対するアプローチについて、現状の取り組みと課題を話した。

パタゴニア日本支社 ビジネス&インダストリー・エンゲージメント・マネージャー 篠 健司さん(左)。

パタゴニアは、新品で製品を購入したお客にできるだけ長く使ってもらえるよう、製品のライフサイクルを延ばすケア・リペア、下取り・買い取りなどの各種サービスを充実させ、成果を上げてきた。また、デザイン段階の最初に素材、耐久性、リペアやリサイクルなど循環のしやすさなどを見極めるIQI(アイアンクラッド・クオリティ・インデックス)と呼ばれる独自の評価基準を設け、経年で見直しながら改善していることなども紹介された。

一方、課題もあると篠さんは指摘する。「パタゴニア製品の強みは、長寿命と耐久性。裏を返せば、耐久性があるから地球上により長く残ることが、循環する上では欠点ともなる。機能性の持続とリサイクルのしやすさ、両者のバランスをどう取るかは大きな課題」

パタゴニアがこれまで製造した製品のうち、リサイクル用に回収された割合は1%未満。85〜90%の製品は、製品寿命を迎えた際にきちんと循環できるソリューションを持っていない、という。「製品以外にも、製造や流通に伴う裁断くずや副資材などの廃棄物が多く出ていますが、今日はそのことも話題にできれば。パタゴニアはデータを収集し、廃棄物の最大の要因が何かを把握するための取り組みを今、これから始めようとしている段階です」

この日、ゲストに招かれたのは信州大学繊維学部の高橋伸英教授、一般社団法人unisteps共同代表理事の鎌田安里紗さん、パタゴニア日本支社でレスポンシブル・オペレーション・マネージャーを務める市原詩野さん。3人はそれぞれの専門分野や活動領域に基づき、話題提供としてのプレゼンテーションを行った。

EUで着々と整備される循環経済の法制度

信州大学繊維学部化学・材料学科教授 副学部長 高橋伸英さん。

トップバッターは信州大の高橋教授。繊維製品のサーキュラーエコノミーに関する制度について日本とEUの政策を比較しつつ、その動向を示した。

大まかな傾向として、EUはトップダウン型で強制力を伴う法律、規制、規則、指令などを出して取り組みを義務化するのに対し、日本はガイドラインなどで方向性を示し、企業の自主努力に委ねたり、多様な主体で協働していくことを奨励することが多いという。

政策は、目指すビジョン(第1層)、実現に向けた戦略やロードマップ(第2層)、そして、それを実行するための法などの制度やガイドライン(第3層)に分けられる。高橋教授は日本と欧州と、各層を表で色分けして示しながら、特に繊維製品に関する政策にフォーカスして解説していった。

まず、欧州は持続可能な社会と経済を目指す成長戦略として2019年に欧州グリーンディールを発表。2020年に新循環経済共同計画(CEAP)を策定した。繊維に関しては2023年にロードマップ「繊維エコシステムの移行経路(トランジション・パスウェイ)」が示され、ESPR(エコデザイン規則)、廃棄物枠組指令など、繊維を含む製品ライフサイクル全体の循環を向上させるため、さまざまな法制度が整備されている。

ESPRの中で導入される具体的な仕組みや実施手段のうち、ライフサイクル全体の情報をつなぐデジタル基盤として注目されるのがDPP(デジタル製品パスポート)だ。繊維を含む対象製品は、DPPに適合することがEU市場参入の条件となる。

繊維to繊維の資源循環社会を構想する日本

一方、日本も2050年カーボンニュートラル目標に向け、2020年に循環経済ビジョンを発表。うち繊維に関する戦略としては、2022年に繊維ビジョンと繊維技術ロードマップを打ち出し、2024年に繊維製品における資源循環ロードマップを策定した。

繊維ビジョンでは、新市場開拓のための3つの戦略分野と、ビジネスの前提となる2つの横断分野、「サステナビリティの推進」と「デジタル化の加速」を設け、政策を進めている。戦略分野の一つ、技術開発による市場創出の中に繊維to繊維のリサイクル推進がある。繊維to繊維とは、不要になった繊維製品をまた元の繊維原料に戻す技術で、サステナビリティの実現にも貢献する。繊維技術ロードマップによると、繊維to繊維の技術開発の方向性には、リサイクルしやすい製品の開発、複合素材の廃棄物を素材ごとに分ける技術の開発、ケミカルリサイクルやマテリアルリサイクルの技術開発などが挙げられており、日本はこうした分野で強みを発揮し、世界で存在感を示そうと動き出している。

高橋教授は、繊維リサイクルの現場の作業工程を図解した資料を基に、繊維to繊維の課題にも触れた。課題は、①手作業で行っている素材選別工程の効率化、②衣料品を単一素材にまで分離する技術の確立、③ボタン、ファスナーなど付属品の活用方法、と大きく3つある。特に素材分離の課題解決に向けては、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)のバイオものづくり革命推進事業で目下研究が進んでいるという。

もちろん、サーキュラリティの実現には技術者だけでなく、消費者も一体となって取り組む必要がある。繊維製品における資源循環ロードマップには、2030年に家庭から廃棄される衣類の量を25%(2020年比)減らす目標が掲げられており、今年3月には環境省がアクションプランを出した。その将来像は、①全国どこでも回収に出せるシステムの構築、②使えるものは譲るリユースの拡大、③衣類を長く使う機運や仕組みの浸透などとあり、①〜③で約13万tと具体的な数値目標も掲げている。

そもそも製品をデザイン・設計する段階で環境配慮を行き届かせることも重要と高橋教授は指摘する。前出のロードマップによると、2030年には8割の企業に環境配慮設計ガイドラインが普及していることを目標に掲げており、環境配慮設計の国内規格(JIS)、国際規格(ISO)化が進んでいるという。また、先出のEUのDPP適合に向け、日本でも環境配慮情報開示ガイドラインやサーキュラーエコノミー情報流通プラットフォームを整備する動きも進んでいるそうだ。

3つの観点から循環型ファッションの実現目指す

続いて、unistepsの鎌田安里紗さんは、企業・行政、デザイナー、消費者の視点から見た循環型社会のあるべき姿をテーマに語った。

一般社団法人unisteps共同代表理事 鎌田安里紗さん。

まず、人口増加率に対する繊維生産量が2000年ごろから大幅に増え、1990〜2019年に供給量が2倍に膨れ上がったのにも関わらず、価格は相反して安くなり、消費スピードも加速したことがunistepsの活動背景にあると、鎌田さんはグラフを用いて指摘。服をつくりすぎず、適切に循環させていくことが気候変動を低減させるためにも必要で、unistepsはその課題解決に向け、さまざまなステークホルダーと団体や事業の運営を行っている。

企業・行政との取り組みは、ジャパンサステナブルファッションアライアンスという企業連携プラットフォームで、事務局をunistepsが務めている。繊維メーカー、アパレル、商社、リサイクル企業、副資材メーカーなど正会員20社ほどの他、賛助会員の企業からなり、理想の資源循環像を掲げ、サステナビリティに関する取り組みを協働したり、現状改善を促す政策提言などを行っている。

デザイナーに関するプロジェクトはファッションフロンティアプログラム。社会的責任とクリエイティビティの双方を高レベルで実現できるデザイナーを発掘するアワードと教育プログラムを運営。持続可能なファッション産業の実現には、デザイナーの意思決定が非常に重要である中、環境配慮設計の視点をファッションデザインやクリエーションに携わる人たちが身につけ、支援を受けられる機会を提供している。

また、生活者視点では、ファッションレボリューションの日本事務局としてさまざまな発信を行っている。ファッションレボリューションは、ファッション産業の透明性確保を求めるグローバルムーブメントで、2013年、劣悪な労働環境が露呈したバングラデシュの縫製工場崩落事故を機に世界約100カ国に広まった。世界の支部と連動したイベントやアクションを実施するほか、生産と廃棄の現場をめぐるフィールドトリップも年数回企画し、納得感を持って服を選びたいと考える生活者に視野を広げてもらう機会を提供している。

鎌田さんは循環型ファッションの実現に向けた課題を、「企業や行政は資源循環の仕組みの経済性をいかに確保するか、デザイナーは環境配慮設計の視点をどう持って実践していくか、生活者は服がどこから来てどこへ行くのかの解像度をどう上げていけるか」とそれぞれの視点から整理し、話題提供とした。

パタゴニアが取り組む資材循環の好事例

最後の話題提供者として、パタゴニア日本支社の市原詩野さんがサーキュラリティに関するパタゴニアの方針や資材循環の取り組みを紹介した。

パタゴニア日本支社 レスポンシブル・オペレーション・マネージャー 市原詩野さん。

パタゴニアはゼロ・ウェイスト、埋め立て地行きごみをゼロにする目標を掲げてきた。ゼロ・ウェイストとは、そもそも「ごみを出さない方法を模索するアプローチ」。その道筋は、まず現状把握。その上で戦略的に目標を設定し、社員一人ひとりの行動変容を促す。作業工程やそれまでの調達方法を見直し、これらを経て出てきたベストプラクティスや解決策を多くの人と共有し、課題解決や社会変革につなげていく、というものだ。

資材調達から最終的に手放すところまで、パタゴニアでは一連のガイドラインを定めていて、廃棄物ガバナンス指針と有用物オペレーション・ガイドラインに従い、資材は「感謝と責任を持って大切に扱い、送り出している」と市原さんは話す。

こうした結果、生まれたベストプラクティス数例を市原さんは取り上げた。メーカーと協働して副資材のファスナーを再びファスナーに戻す「zip TO zip」、使い捨ての不織布が一般的なフェイスカバーを数年がかりで古紙再生が可能なFSC認証紙に変えた事例などを紹介。「道半ばですが、今後も私たちが調達するすべての資材に対して、サーキュラリティを実践していきたい」と、市原さんは発表を終えた。

経済性の壁と見える化がもたらす推進力

3人の話題提供が終わり、ダイアログへ。対話は、司会の篠さんがゲストに質問を投げかける形で始まった。

最初の質問は、日本のアパレル業界でサーキュラリティの進展を阻む最大のボトルネック(障害)は何か。篠さんは「技術か、制度か、それとも企業や消費者の意識か?」と問いかけた。サーキュラリティに貢献する技術であっても、「成長が見込めないから手を引く」と技術者が開発に消極的になることはある、と鎌田さんは言い、話題は公的支援によるインセンティブを含め、経済性をどう確保するかに。

高橋教授は太陽光発電を引き合いに、「起爆剤となる公的支援を仕掛けると動くのは確かにある。繊維業界だけでリサイクル技術をつくって回すことが難しいとしたら、他産業と組み合わせることも選択肢として考えた方が良いかもしれない」と話す。

市原さんは、ベストプラクティスとして出したFSC認証紙のフェイスカバーを一例に、「小ロットにも関わらず、同じ思いを持った大企業と共同購入する形で実現でき、価格も抑えられた」と、協働で経済性の課題を乗り越えることができたことを明かす。

続いての質問は、「サーキュラリティを進展させるため、企業が最初に変えるべきことの優先順位」について。商品設計なのか、調達、販売、回収、はたまた経営の意思決定なのか?

鎌田さんは全てに絡む意思決定を挙げた。「会社がどこに向かうのかが決まってないと、サステナビリティに関する取り組みと経済性が一致してない時にハレーションが起きる。経営の意思決定ができる立場の人の考えが変わることは非常に重要」と指摘する。「ただ先ほどのフェイスカバーの事例が示すように、それぞれの立場でできることが必ずある。事例をシェアしたり、課題を開示していくことが前進に寄与すると思う」と付け加えた。

高橋教授は、企業と大学の連携事例として信州大繊維学部が行ってきた繊維産業のLCA(1*)調査について話した。「うちの大学では、紡績、染色、縫製、アパレルの川上から川下までいろんな中小工場に出向いて作業時の温室効果ガス排出量を算定し、データをとることを進めています。そうすると、『ここにエネルギーをたくさん使っていたのか!』と気づかされることがいっぱいある。大学ではその見える化を支援していますが、まずはデータを定量化し、その上で考えることは大事。見える化は手立てを考えるヒントになる」と言う。

1* ライフサイクルアセスメント 製品やサービスの資源採取から廃棄・リサイクルまで、一生にわたる環境負荷を定量的に評価する手法。

前に進むために必要なのはビジョン

会場からも質問が寄せられた。ワインメーカーに勤務する男性は、「今日の話を聞き、ワインは産地などトレーサビリティを価値にしてビジネスをしている世界だと気づいた」と感想を語る。

その視点に触発を受けた鎌田さんは、「ワインとの比較は面白い。アパレルは価格も質も幅広いので、業界全体がトレーサビリティを価値にできる状況にないとは思うが、その価値を求めている層は確実にいる」と言い、アパレル業界におけるトレーサビリティ開示も「DPP対応だけでなく、今後ますます企業価値にもなっていくのでは」と期待を寄せる。

高橋教授も、「日本で情報流通プラットフォーム構築に携わる人たちも、単に環境負荷だけでなく、そこにまつわる物語も情報に載せられないかと構想している。ゆくゆくは消費者が製品を手に取った時、環境負荷の低減プラス、どうつくられたかといったストーリーも価値になるかもしれない」と応じた。

また、建設関連のスタートアップで働く参加者からは、「アパレル業界にコレクティブアクション(協働)が生まれたきっかけについて聞いてみたい」、と質問があった。

篠さんは、「私や鎌田さん、高橋先生が参加する繊維製品の環境配慮設計ガイドライン検討会にも個人、企業、さまざまな人が入って、ある意味コレクティブな知見で良いものをつくろうとする動き」と言い、高橋教授に会の印象を尋ねた。高橋教授は、「みんな自分の所属先を背負ってその場に参加しているので、ぶつかり合いもあるが、ぶつかり合うことが良いものを引き出すとも感じる。上位概念(ビジョン)を掲げ、共感しつつ、自分の主張もして、そこに向かって高まっていくのが一番良いのでは」と話す。

鎌田さんは、「協働でやることと、みんなを触発する“星”になることはまた別。新しいやり方をカッコ良く、成長しながら見せてくれると、他の企業も参考にして、それが全体のアクションに影響していくことがある」と、先駆者が協働の原動力になることもあると指摘。市原さんも、「アパレルは関わっている人が多く、課題も深刻だが、描きたい未来が見えてくると、皆さんの心が一つになって動いていく気がするし、その最初の一歩を踏み出す人の存在は非常に大きい」と応じた。

垣根がなくなるような空気感

会場からの質問は終了時間ギリギリまで相次いだ。ゲストも対話に刺激を受け、ゲスト同士でも質問し合うなど、垣根がなくなるような会場の空気感が印象的だった。

ビジネス・ダイアログは、パタゴニアのインパクトレポート「ワーク・イン・プログレス」の実例をベースに対話を深める学びの場だが、今回のテーマであるサーキュラリティは、とりわけ課題の開示と共有、そして想像力を持って挑み、協働することが大切なトピックだ。「ビジネスの未来は廃棄物に」とパタゴニアのレポートにもあるが、その試行錯誤はまさに“進行中”と感じさせる第2回だった。

ビジネスが、善の力になるためにできること
未来のビジネス変革につながる視点を育む対話型フォーラム「ビジネス・ダイアログ」

第3回「独特な事業構造 100年続く責任ある企業であるために」
第4回「真の解決策は真のパートナーシップに根ざす」

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ライター/エディター
岩井光子
美術館勤務などを経てフリーに。Think the Earthのウェブメディア「think」地球ニュース編集を始め、一般誌、ウェブメディア、企業とのコラボなどでサステナブルやSDGsに関する企画を多く担当。著書に震災後、福島県相馬市に誕生した音楽教育プログラム「エル・システマ」を追った『未来をはこぶオーケストラ』(汐文社)。

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