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国際協調や政治が機能しない今、私たちはどう行動すべきか?
毎年9月になると国連総会のために世界中からリーダーや政策立案者が集合するニューヨーク。今年もそのすぐ横で、9月20日から27日まで世界最大の気候イベント Climate Week NYC(クライメート・ウィーク・ニューヨークシティ)が開催された。主催は気候変動NPOのClimate Groupで、経営者向けの円卓会議やサイドのプログラムを通じ、気候危機の現状についての認識確認や未来の方向性に向けてのコンセンサスの構築を行った。その外でも、ニューヨーク市の5地区の各地で、学府や企業、気候団体や政界などが企画・参加する無数のパネル、勉強会やネットワークイベントが開催され、ジャスト・トランジション(公正な移行)、再生エネルギーや気候訴訟、再生農業と食、AIとデータセンターなど、気候や未来の持続性にまつわる幅広いテーマが議論された。
第二次トランプ政権が発足して2度目のClimate Weekとなっただけに、通底するひとつの大きなテーマに、政府や国際協調が機能しないとき、どう行動するべきかがあった。パリ協定撤退や規制緩和、USAIDの廃止を受けて、今も多くの人が対応に追われ、答えを求めているように感じられた。
また、もうひとつ大きなテーマとして「再生」の要素があった。大規模な自然災害が加速的に増えるなか、いかに迅速に、環境に有害なあり方から地球環境を改善する再生的(リジェネラティブ)なアプローチに移行していくことができるのか。農業や海洋などの分野で、周辺の生態系の健康を改善し、環境を再生するアプローチが求められているのだった。

ポスト・パリ協定の世の中がどう動いているのかは私にとっても大きな関心ごとのひとつである。衛星イベントのひとつNest Campusというカンファレンスで行われた、アビゲイル・スパンバーガー知事(バージニア州)とパタゴニアのライアン・ゲラートCEOの対談に出席した。対談では、気候変動や自然保護、市民参加において、企業と政府がどのような役割を果たすべきかが議論された。国政が手を離したときに環境を守る責務が大きくなった州の首長に何ができるのか、スパンバーガー知事は、エネルギー政策や気候レジリエンスに取り組む立場から、来るAI社会に現実的に対処するとともに、民意の構築を進めながら、企業責任を問うことの必要性を説いていた。
一方、パタゴニアは自然を守るという企業のミッションのもと、自然保護に関する提言や政策提言を続けている。トランプ政権による環境規制緩和に反対の声を上げるとともに、ベアーズ・イヤーズ国定公園の縮小に異議を唱える訴訟にも参加した。多くの企業の経営者たちがトランプ政権におもねる方向にシフトしていることをどう考えているかをたずねられたゲラートCEOは、パタゴニアが創立5年後の1978年に、創立の地カリフォルニア州ベンチュラの地元紙に投票を呼びかける広告を出した歴史について触れ、「環境を守るだけでなく、民主的なプロセスに関与することも、価値観の中心にあり続けてきた」と語った。

ゲラートCEOは、未曾有の危機を前に、企業や政府、市民社会が共に行動することの重要性を協調したが、今の政治的環境においては現実との乖離がある。2024年の大統領選挙では、推定1,120万人以上と言われる環境問題を重要な課題だと考える有権者が投票しなかったことが話題になった。「政治」へ積極的に関わろうとしない層を取り込むために、いかに生活や自然についてのメッセージを届けることができるのか。Climate Week NYCが終了した9月26日、パタゴニアは「11.2 Million Vote Project」を発表した。11月3日に行われる中間選挙に向けて、前回投票に参加しなかったかもしれない家族や知人3人に投票を呼びかけ、投票所の場所を含めた情報を共有すると、100ドル分の買い物に使えるクレジットの入手か、その分を環境のための投票を促進する団体に寄付できる、という内容だった。パタゴニアは、この超党派のプロジェクトに1,120万ドルを拠出し、10月1日には、11万2000人以上が参加し、彼らが連絡した人たちのうち、50万人以上が投票に参加する意思を示したと発表した。

パタゴニアが連携する農地再生の市民活動
ゲラートCEOは、対談の中で、政治の領域にとどまらず、非営利団体やコミュニティ・アクティビズム、生産者たちと手を取り連帯していることに言及していた。しかし、実際、今回のClimate Week NYCを通じて、パタゴニアが構築するコミュニティ・アクティビズムの一端を垣間見た。そのひとつが、ソーホー地区の店舗で行われた地域コミュニティや生産者を起点に自然再生を進めるMAD AGRICULTUREのフィリップ・テイラーによる講演である。
MAD AGRICULTUREは、「限界農地」と言われる収穫量が少なくコストの高い農地に、樹木や放牧を組み合わせる「ワイルドリング」と呼ばれるアプローチを取り入れることで本来の生物多様性を取り戻す活動を行っている。こうしたアプローチは大規模な農地の再生につながるが、多くの場合、農家や土地のある所有者がそれにかかるコストを負担することは事実上不可能で、MADは債券を発行するなどして資金調達を支援し、ひいては経済的価値ももたらす仕組みを構築している。
一筋縄ではいかない気候変動対策
迫り来る未曾有の危機を前に、Climate Week NYCでどんな答えが提示されるのか、期待もあったが、実際には想像以上にリアルな世の中の縮図だった。カンファレンスでは、過去よりも規模が拡大していることが取り上げられ、会場外の企業のブランドブースでは、活発なセールストークが繰り広げられている。AI企業を招き、ソリューションとしての可能性を論じるパネルに、ディスラプターが登場して、欺瞞を追求する一幕もあった。
再生をテーマにしたイベントでは、土壌を再生するための綿栽培に取り組み、そのシフトを提唱するパネリストが、別のパネルで語られた化学繊維のリサイクルの有害性やグリーンウォッシングを指摘する場面もあった。資本主義の枠組みの中で、持続性や公正な移行を論じ、目指すことが内包する矛盾と複雑さを改めて感じさせるものでもあった。
一方で、コマーシャル性の高い大型カンファレンスの外では、地域コミュニティで行政や市民が強力したり、企業がアクティビストを支援する実例の存在も数多く見られた。
後編では、パタゴニアが支援する日本の若者による気候訴訟のグループが開催したイベントを紹介する。