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佐々木洋品店は佐々木貢さん、千穂(ササキチホ)さん夫妻が2014年に始めたヴィンテージリメイクのブランドだ。千穂さんは、ヨーロッパのアンティークリネン中心、佐々木さんは日本の職人や農家の人たちが着ていた綿の古着、とそれぞれが心惹かれる質感の古着や古布から独創的な世界観の服をつくり出す。
佐々木さんの作品はすべて1点モノ。藍染やデニム地のマットな質感の綿の古着を基調に、化学繊維の入った布は使わないのがこだわりだ。古布でたくさんパッチワークを施し、1点ごとに「同系色で」、「カラフルに」、などおおまかなイメージを膨らませながら唯一無二のジャケットやシャツなどに仕立てる。手縫いのため、1着に1週間〜数週間はかかるそうだ。

「学生の頃からボロいものが好きでしたね。2009年に下北沢で古着屋を始めて、ヨーロッパで服を仕入れていた頃も、特に1940~50年代の労働者階級の人たちが着ていた服に惹かれていました。そういう人たちって暮らしの余裕もなかったと思うので、布がダメージを受けたり、糸がほつれたりしたら自分たちで直して、何度も着て、直しては着てみたいな、いわゆる日本の襤褸(ぼろ)と同じような感覚で着倒している。そういう服がもともとすごく好きでした」
その後、佐々木さんは日本のぼろにも出合い、ヨーロッパで見かけたようなリメイクを自分もやってみようと思い立つ。

古着のキズは暮らしと仕事の痕跡
佐々木さんの出身は宮城県大崎市。ぼろは東北の寒村に根付く文化だ。

「綿が採れない寒い地域では、綿の服は貴重でした。だから、麻などを重ねて何度も直した。ぼろは貧しい人たちが大事な服を長く着続ける知恵から始まった文化。自分もそこにインスパイアされて、手仕事の温かみを感じる服をつくりたいと思いました」
佐々木さんは試行錯誤を繰り返しながらパッチワークや刺し子で布を補強し、カジュアルに羽織れて、さらに先の世代まで着続けられる服づくりを目指した。

心惹かれたのは、直した場所がわからないような完璧な修復ではなく、かつてどこの家でも当たり前に行われていたお直し。「プロの直しはどこか冷たさもあるけど、家族が応急的に施した手直しには温もりがある」と佐々木さん。作品に見られる多少荒い縫い方や、柄を几帳面に合わせないデザインは、そうした労働者文化へのオマージュだ。
「家族の直しには偶然の産物みたいなところがあって、家にあった余り生地で穴を塞いだり、破れを閉じた縫い目が少し曲がっていたり。でも、それこそ世界に一つの作品だと感じます」
古着の汚れや破れ、擦れは仕事と暮らしの痕跡。その来し方に思いを馳せながら、佐々木さんは針を進めていく。
「ペンキ屋さんだったら、お腹から下の辺りにペンキ汚れがあるとか。肉屋さんのエプロンの汚れやすい場所や擦れてくる場所にも“らしさ”があります。そういう職人さん特有のダメージを見ながら、パッチワークの布をどこに置いて、どこを縫ったら自然になるかを考えていきます」
世界で高く評価された「BORO」
ぼろは今ではサステナブルファッションのキーワードとして広く浸透し、世界でも「BORO」で通じる。布をつぎはぎした独特のテクスチャーやアート性が高く評価されたこと。また、寒さをしのぎ、服を長持ちさせるなどといった実用面が、ファストファッションへのアンチテーゼとなって、その存在意義を高めた側面もあるだろう。
グローバルブランドでは、2010年代にルイ・ヴィトンやコム デ ギャルソンが相次いでBOROをテーマにしたコレクションを発表。民俗学者・田中忠三郎の民俗衣コレクションが2019年から世界のミュージアムを巡回した展覧会も、BOROが生まれた歴史的背景を世界に広めるきっかけとなった。
一方、日本では、ぼろは昔の貧しさを思い起こす“恥ずかしいもの”という感覚が残っていることも事実だ。国内外で嗜好の差も感じていた佐々木さんは、「自分の作品は国内ではあまり売れないかもしれない」と、2014年からインスタグラムで自分の作品や日本のBORO文化などについて、一貫して英語で発信を続けてきた。
フォロワーは10年ほどで5万人を突破。作品はアメリカの「Etsy」などオンラインサイトで販売し、今も売り上げの9割は海外だ。うち8割がアメリカで、他はヨーロッパ各国だという。

ここ数年はショーや個展などを通じ、新たな展開もあった。2023年9月には、パリのファッションウィーク期間中に注目の若手デザイナーを集めたGlobal Fashion Collectiveから声がかかり、出演を決めた。


作品はアンジーの目にも留まり
この出演が思いもよらない展開につながる。
社会貢献活動にも熱心なことで知られる俳優のアンジェリーナ・ジョリーのスタッフから、佐々木さんのインスタに「服を送ってほしい」とDMが届いたのだ。2023年12月、時代の消費サイクルに影響されない世界各国のアーティストの作品を紹介するギャラリー兼共創スペースとしてオープンした「アトリエ・ジョリー」で、佐々木さんの作品は1年ほど展示販売されることになった。
アトリエ・ジョリーがあるマンハッタン南部の57グレート・ジョーンズ・ストリートは、かつてアンディ・ウォーホルが所有していた建物で、今もストリートアートの聖地として知られる。彼に憧れ、作品を共同制作していたジャン=ミシェル・バスキアは亡くなるまでここで暮らし、制作活動を行っていたという。
そんな由緒あるアートの発信源で、アンジーが世界からテーラーやパタンナーを集めて⽴ち上げた新プロジェクトがアトリエ・ジョリーだ。クリエーターの頭の中にあるコンセプトの具現化に職人たちが伴走する実験的なコミュニティーで、環境負荷の少ないヴィンテージ素材やデッドストックを使うことにもこだわりがある。この文脈に沿う佐々木さんの服は、ここに集まる多くのクリエーターに刺激を与え、よく売れたそうだ。
アンチ・パーフェクトな服づくり
縁は広がり、2026年5〜6月にはNYブルックリンのギャラリー「GGrippo」でも個展を開催。GGrippoはサステナブルな制作活動に取り組む世界各国の現代アーティストの作品を展示するギャラリーだ。
レセプションパーティーには、インスタのコアなフォロワーたちが作品を一目見たいと各地から足を運んでくれたという。長くオンライン販売を軸に活動してきた佐々木さんにとって、これまで作品づくりを支えてくれたファンと言葉を交わした時間は至福のひとときだった。「実際にお会いするのは初めての方が多かったのですが、昔からの親友のように打ち解けた話ができた」と佐々木さんは語る。

個展のタイトルは「アンチ・パーフェクト」。ここに佐々木さんの服づくりに通底する思いが端的に表れている。
「きれいで完璧な服は、購入した時点から価値が下がっていく一方ですけど、リペアする服は修復すればするほど、パッチワークが増えれば増えるほど価値が上がって格好良くなっていくし、ずっと着続けられる。その方が良いですよね」
「自分の思いは想像以上に理解してもらえた」と、佐々木さんは手応えを感じている。数少ない服を大切に着続けた当時の人たちの気持ちをリスペクトした佐々木さんの制作スタイルは、とても日本的でありながら、国境を越えて人の心を惹きつける普遍的な魅力がある。